視覚障害とは

(2013/6/12版)

望月 優 (株式会社アメディア 社長)
文: 望月 優 (株式会社アメディア 社長)

はじめに

このページでは、 視覚障害者あるいは盲人に関する様々なことがらについて解説しています。 ふだんあまり視覚障害者に会わない方々に、 全般的な知識を持っていただくために作成しました。 ここに書かれていることはおもに私 (望月) の個人的な経験にもとづくものであり、 内容の正確性・中立性を保証するものではありませんが、 もしお客様にお気づきの点がございましたら、 どうぞ株式会社アメディアまでご一報ください。 なお、このページで挙げている団体・商品名は各団体・企業に帰属するものです。 団体・企業に対する敬称は省略させていただきました。

参考資料:

株式会社アメディアのサイトでは、 視覚障害者の就労場面で必要な機器、日常生活を便利にする機器、 そして単純に目が見えなくても使いやすい用具や機器を紹介しています。 音声ソフトでも操作しやすくなっておりますので、ぜひご覧ください。

「視覚障害者」と「盲人」の使い分けについて

現在では「視覚障害者」という言葉がより一般的に使われるようになっていますが、 私自身全盲で、「盲人」という言葉に自分のアイデンティティを感じています。 そのため、このページでは「盲人」という言葉を多用しています。 ですが、通常「盲人」という言葉は中・軽度の弱視者を含まないので、 弱視者を含めて呼ぶときには「視覚障害者」という言葉を使っています。

目次

1. 視覚障害の定義

視覚障害とは、端的に言えば目が見えないことです。 視覚障害は、メガネやコンタクトレンズなどのいかなる手段で視力を矯正しても、 視力や視野狭窄の状態がある一定以上は復活しない状態をさします。 肉眼の視力が弱くても、メガネをかければよく見える人は視覚障害者ではありません。 日本の法律における視覚障害者は身体障害者に分類され (これ以外にも「知的障害者」「精神障害者」という分類があります)、 身体障害者福祉法の施行規則別表で以下のように定義されています。

1.1. 視覚障害の等級表

1級
  • 両眼の視力の和が 0.01以下のもの
2級
  • 両眼の視力の和が 0.02以上 0.04以下のもの
  • 両眼の視野がそれぞれ10度以内で かつ両目による視野について視能率による損失率が95%以上のもの
3級
  • 両眼の視力の和が 0.05以上 0.08以下のもの
  • 両眼の視野がそれぞれ10度以内で かつ両目による視野について視能率による損失率が90%以上のもの
4級
  • 両眼の視力の和が 0.09以上 0.12以下のもの
  • 両眼の視野がそれぞれ10度以内
5級
  • 両眼の視力の和が 0.13以上 0.2以下のもの
  • 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
6級
  • 一眼の視力が 0.02以下、他眼の視力が 0.6以下のもので 両眼の視力の和が 0.2を超えるもの

このように、視覚障害には「視力障害」と 「視野障害」のふたつの要素が含まれています。 最近では「ロービジョン」という言葉もよく使われるようになってきましたが、 これは視覚障害とほぼ同じ意味と考えてよいでしょう。

1.2. 障害者手帳について

視覚障害者は身体障害者手帳を持つことができ、 これは地方自治体の福祉事務所に医師の診断書とともに申請すると 交付されます。身体障害者手帳は、単に「障害者手帳」あるいは「手帳」と 呼ばれることも多いです。

障害者にとって障害者手帳とは「自分が障害者であることの証明」の ようなものです。障害者手帳には上に記した障害者としての等級が書かれており、 視覚障害者はこれを提示することによって、各種公共機関の福祉サービスや 交通機関の運賃の割引きサービスなどを受けることができます。 また、障害者手帳の交付数は、国や自治体が障害者の実態を把握するための 統計のベースにもなっています。

1.3. 法律で定義されていない視覚障害

実際には、上記のような定義にあてはまらない 視覚障害をもっている人もいますが、これらの障害は 法律では定義されていませんので、 身体障害者手帳の交付対象とはなりません。

色覚障害

色覚障害では、いわゆる色盲と呼ばれる状態がよく知られています。 これは、特定波長の色が認識できない状態です。 これとは別に、特定の色が別の色に見える人もいます。 この状態は色覚異常と考えられます。

光覚障害

光覚障害で一般によく知られているのは、 夜になると全く見えなくなる夜盲症です。 逆に、明るいとまぶしくてまったく対応できない人もいます。 また、暗所から明所、その逆の明所から暗所へ移動した時に、 順応が遅い人もおり、これも一つの明暗順応障害と言えます。

1.4. 視野の視能率

さて、国が決めた判定基準に再び戻りましょう。 等級の判定基準の中に「視能率」という言葉が出てきました。
  • 両眼の視野がそれぞれ10度以内で かつ両目による視野について視能率による損失率が95%以上のもの

これは 2級の視野に関する判定基準です。 視能率とは、視覚の機能障害の評価法の一種です。 機能が健常であれば視能率は100パーセント、 視力が全くない場合は、視能率は0パーセントとなります。 視野障害の視能率を求めるには、視野計というものを使って、 8方向の残存視野の角度を測定し、それを合計します。 この結果を平均的な人の合計と比較し、その割合を求めます。 障害の程度を表す場合、通常は「視能率の損失率」を使うことになっています。 よって、健常の人は損失率0%、全盲の場合は損失率100%ということになります。

1.5. 加齢による視覚障害

歳を取ると、身体のいろいろな部分が老化してきますが、 目もその例外ではありません。2001年の身体障害者(児)実態調査によると、 20歳以上の視覚障害者の人口は301,000人で、そのうち約64%が 65歳以上という結果になっています。 これは、医学の発達により、若年での失明者が減少する一方で、 加齢による視力の減退や視野の狭窄などによる視覚障害の発症が 増えていることを示唆しています。 高齢者では、以下のような原因による視覚障害がよく見られます。

視力障害の原因

視野障害の原因

なお、視野障害のおもな原因である網膜色素変性症は、 若年または中年で発症し、その後徐々に進行することが多いと言われています。

1.6. 盲ろう (盲聾)

盲ろう (盲聾) とは視覚障害と聴覚障害をあわせもった状態です。 日本の法律では盲ろう者についてのはっきりした定義はなく、 盲ろう者は視覚障害と聴覚障害をあわせもつ 「重複障害者」として定義されます。 日本全国ではおよそ数万人の盲ろう者がいると推定されていますが、 その正確な数はわかっていません。

多くの盲ろう者はもともと視覚障害者あるいは聴覚障害者であり、 その後もう一方の感覚を失って盲ろう者となる人がほとんどです。 そのため、盲ろう者のコミュニケーション方法は大きくふたつに分けられます。 もともと盲人だった人は話し言葉には慣れていますから、 聞こえなくなってからも日本語の話し言葉に比較的近い方法で コミュニケーションします。このような人は「盲ベースの」盲ろう者と呼ばれます。 いっぽう、もともとろう者で手話を使っていた人は 失明してからも手話を使ってコミュニケーションします。 このような手話は見るのではなくさわって理解するので 「触手話」とも呼ばれます。 盲ベースの盲ろう者には、聞こえなくても話すことができたり、 点字を指で表現する「指点字」を使っている人がいます。 日本では、指点字の考案者として福島智さんが有名です。

2. 視覚障害者の生活

2.1. 移動

移動は視覚障害者にとって最大の問題のひとつです。 多くの弱視者は自力で移動することができますが、盲人の場合はそうはいきません。 盲人の中には、ほとんど家から出ない人もいますが、 誰かと一緒であれば外出するという人は比較的多いようです。 誰かと一緒に移動するケースには、家族や友人・知人と連れ立って出かける場合と、 認定されたガイドヘルパーに来てもらって出かける場合があります。 さらに、単独でも白杖・盲導犬を使って出歩く人がある程度います。 ここでは、単独で移動するケースを中心に説明します。 ガイドヘルパーは都道府県が認定する制度であり、 その資格や派遣の内容は各自治体によって異なります。

2.1.1. 徒歩による移動

盲人が徒歩で出かける場合は、白杖 (はくじょう) または 盲導犬を利用します。 白杖や盲導犬を利用して徒歩で移動することを 「自立歩行」と呼びます。

白杖

使い方だけをみれば、盲人にとって白杖と盲導犬は同じような存在です。 ただし盲導犬は訓練にとても費用がかかるため、 現在のところ日本全国で数百頭しか存在しません。 そのため、盲人の中で盲導犬を使っている人の割合は数十人に1人程度です。 いっぽう白杖は入手しやすいことから、1人で何本もの白杖を持っている人もいます。 いずれにせよ、盲人が単独で歩けるようになるためには訓練が必要です。 視力を失った後、一人で歩けるようになるためには、白杖を使った場合で 約1ヶ月から3ヶ月間の歩行訓練、盲導犬を利用する場合は、 相手となる犬と一緒に1ヶ月間ほど泊り込みの訓練を受ける必要があります。

白杖による歩行訓練には個人差があり、すぐに上達する人とそうでない人がいますが、 一般的に若い人のほうがより早くマスターできる傾向にあるようです。 白杖は、自分の前で軽く左右に振りながら路面に触れ、 前方50センチから1メートルぐらいまでの路面の状況を観察します。 このとき、電信柱や自転車、車などの存在も確認できますが、 頭上に張り出した物体、例えば看板やトラックの荷台などは確認できませんので、 これらに顔や頭をぶつけて怪我をすることがあります。 4.1. 白杖の項もご覧ください。

白杖・盲導犬のもう一つの大きな役割は、周囲に自分が盲人であることを知らせることです。 白杖を携えていることにより、向かい側から歩いてくる人が避けてくれたり、 何か手伝うことはないかと声をかけてくれることがあります。

路上の設備としては、靴底の感触で確認できる誘導用ブロックがあります。 以前は点状のものがほとんどだったため「点字ブロック」とも呼ばれます。 線状ブロックは誘導用、点状ブロックはランドマーク用です。 これらも一人歩きする盲人にはかなり役に立つものです。

2.1.2. 交通機関を使った移動

一般の人々と同じように、視覚障害者もまたバスやタクシー、電車、飛行機などを利用します。 使い方はほとんど目の見える人と同じですが、自宅から駅やバス停までの移動に やや差があります。

A. バス

バスはよく慣れたバス停でないと見つけるのが難しいため、 日常的によく利用している路線以外はあまり利用しません。 しかし、使い慣れた路線では、バスはとても便利な移動手段です。 なお、たいていの視覚障害者は足腰には障害がありませんから、 ノンステップでない、普通の段差が乗・下車口にあるバスもよく利用します。

B. タクシー

視覚障害者はタクシーをよく利用します。 電話をかけて配車してもらうか、駅のタクシー乗り場から乗車します。 路上で空車を見つけるのは困難ですが、多少視力の残っている人であれば 路上で拾うこともできます。また、周囲の人や近くのお店の人に 頼んでタクシーを停めてもらうこともあります。

C. 電車

電車は視覚障害者にとってもっとも便利な交通機関です。 駅は一度覚えてしまえば使いやすい施設ですし、路上で人に道を尋ねるときでも、 駅への行き方を教えてもらうのは簡単です。しかし東京や大阪などで、 多くの路線が乗り入れている大きな駅は、構造が複雑なため、単独で移動するのは大変です。 駅によっては、触って読む触地図も設置されるようになりました。 触地図が設置されている場所には「ピンポン」という音が鳴っています。

地下鉄大江戸線・新江古田駅

最近、駅のプラットフォームの階段の手すりには、 その階段の行き先が点字で書かれていることが多くなりました。 このような駅では、階段に足を踏み出す前に、この先が何番線で、 どこ行きの電車が停車するのかがわかります。 また、階段の手前でホーム上のアナウンスが聴こえることもよくあります。 視覚障害者は、これら手すりの点字表示や、ホームから聴こえてくる 構内アナウンスを頼りにしつつ、周囲の人にも尋ねながら目的の電車を探し当てます。 最近では、電車内のドアの内側にも、何号車・何番ドアということが 点字で書かれている車輌が多くなりました。

電車の乗車・下車に関しては、白杖でドアの位置と段差を確かめて乗り降りします。 盲導犬を利用している人は、盲導犬の動きでドアの段差の具合がわかることに加えて、 空席も犬が探してくれるので、白杖を使っている盲人よりもかなり快適です。

電車の場合、駅の改札口で、その駅での乗車までのガイドと、 下車駅でのホームから出口あるいはバス・タクシー乗り場までの 案内を依頼することができます。

D. 飛行機

飛行機の場合、空港の施設があまりにも大規模で、 一人歩きするのが難しいため、たいていの航空会社では チェックインカウンターで依頼すると、ゲートから搭乗口まで職員がガイドしてくれます。 また、到着地の空港でも、迎えの人が待っている地点やバス・鉄道など、 次の交通機関の乗車口まで案内してくれます。 ただし、ガイドの対応には航空会社によって差があるようです。

障害者割引制度について

多くの公共交通機関には、障害者のための運賃割引制度があります。

バスは地域やバス会社によって異なります。 付き添いと二人で一人分に割引いてくれる場合と、 本人単独でも半額に割引いてくれる場合とがあります。 地域住民にだけ割り引くところや、全く割引のない地域もあります。
いずれにしても、全国統一のルールはないので、初めて乗る場合には、そのつど職員や運転手に尋ねることになります。

タクシーは、障害者手帳を提示すると、1割引してくれるところがあります。 これとは別に、各地方自治体から視覚障害者本人にある程度の タクシー券が支給されていることがあり、 このタクシー券とお金を組み合わせて支払うことがよくあります。

電車は、付き添いと二人で一人分という考え方が一般的です。 単独の場合には割引がないのが普通ですが、JRの場合、100キロ以上の長距離に限り、 単独でも乗車券の半額が割引になります (ただし、特急券は割引にはなりません)。

飛行機の場合、国内線は定価の25パーセント割引となります。 ですが、最近は安価なチケットが出回っているため、 定価の25パーセント割引を使うことが必ずしも 得になるとは言えなくなってきました。

2.2. 情報の取得

2.2.1. 点字

盲人といえば「点字を使う人」というイメージが一般に広まっていますが、 実際には視覚障害者全体のうち、点字の使用者は約1割ほどにすぎません。 点字は習得までにかなりの年月を要しますが、いちど覚えてしまえば 非常に便利なものです。最近の研究では、幼い頃から点字を学習した盲人は、 ふだん晴眼者が文字を読むときに使う脳の視覚野を使って 点字を読んでいるという報告もあります (*1)。

点字の印刷物

点字は19世紀にルイ・ブライユによって発明され、 明治時代に石川倉次によって日本にもたらされました。 日本語の点字は「きょーわ いい てんきだ」のように、 おもにひらがなの発音を表わします。一般的な日本点字では 漢字を表すことはできませんが、漢字も表せるようにした点漢字というものもあります。 漢字が入った普通の日本語の文を点字に直すための作業は、 一般的に「点訳」と呼ばれます。

点訳は専門技術であり、盲人にとって読みやすい点字文書を作るには ある程度の習熟が必要です。通常の小説のような文書であれば 比較的簡単ですが、数式・表などの入った文章をわかりやすい点字にするのは 一筋縄ではいきません。点字の専門家になるための資格として、 厚生労働大臣が認定する「点字技能師」という検定試験があります。

最近ではパソコンによる自動点訳ソフトもよく使われています。 3.9. パソコンにおける点字の利用4.5. 点字機器 の項もお読みください。

[1] H. Burton, Visual Cortex Activity in Early and Late Blind People, The Journal of Neuroscience, 15 May 2003, 23(10): 4005-4011 (link)

2.2.2. テレビ・ラジオ

視覚障害者もテレビを見ますし、ラジオを聴きます。 一般の人々に比べれば、ややラジオに頼る比率が高いかもしれませんが、 これを示す具体的な統計はありません。

ラジオ番組はもともと耳で聞くことを前提として構成されているので、 視覚障害による差はありません。 テレビ番組は全盲者の場合、音で聞こえる部分だけを頼りに楽しみます。 よって、ニュースや討論番組などは快適です。 一方、スポーツ番組などは家族や友人などに隣で解説してもらわないとよく状況が掴めません。 その中間に位置するのが歌番組です。歌は聞こえますが、歌っている人の姿や バックで踊っている人がいるかどうかなどはわかりません。 実は、NHKの紅白歌合戦のラジオ中継では、これら歌以外の要素を アナウンサーが説明してくれています。 最近、ほんの僅かですが、ドラマなどに 副音声で動作の解説をつける番組が出てきました。 このような番組を「副音声解説付き」と呼びます。 副音声の解説をつける動きは、映画やDVDの世界にも少しずつ広がりつつあります。

2.2.3. 書籍・新聞・雑誌

印刷物からの情報は、視覚障害者が一番苦手とするものです。 よって、音訳 (朗読) ボランティアや 点訳ボランティアが活動する領域になっています。 いくつかの公共図書館では、視覚障害者のために本を朗読する 対面朗読サービスを実施しています。 また、図書館の中には、地元の視覚障害者に対して 印刷資料の音訳を行なっているところもあります。 一方、技術の進歩により、これら印刷物を視覚障害者が独力で読む機器も普及してきています。 弱視者は拡大読書器、全盲者は音声読書器を利用して印刷物を読むことができます。 4.3. 読書器の項もご覧ください。

個々の視覚障害者は、自分の読書文化に従って、あるものは人に読んでもらい、 あるものは自分で機器を用いて読むという生活をしています。 ただ、人に読んでもらう場合はほかの人の時間に制約されますし、 機器を使って読む場合は普通の人が目で読むほどの速いペースで読むことができませんので、 おのずと読書量が目の見える人々よりも少なくなりがちです。

最近では、一般向けの図書の電子化もさかんになっており、 音声または点字に変換された電子図書をダウンロードできる インターネット上のサイトもあります。 詳しくは 3.5.3. サピエの項を参照してください。

2.2.4. 携帯電話

視覚障害者にとっても携帯電話は必須のツールになっています。 特に人と待ち合わせをするときや、駅まで電車で行くので 迎えにきてほしいなどといったときは、 携帯電話が目の不自由さをカバーする機器になります。 以前、携帯電話がなかった頃は、人の家を訪問するとき、 駅から電話して行き方を尋ねたり、迎えにきてもらったりしたものですが、 その頃は、駅で公衆電話を探すのに苦労しました。

携帯電話の用途としては、電話をかけるほかにメールもよく利用されています。 ホームページの閲覧は、出先で電車の乗り換え情報を取得したり、 天気予報をみたりすることが活動的な視覚障害者の間ではよく行なわれています。現在は音声でしゃべる携帯電話の機種が少ないため、 多くの視覚障害者がドコモのらくらくホンシリーズを利用しています。

2.2.5. 郵便物

郵便物の整理は、視覚障害者、特に全盲者にとって大きな悩みの一つです。 目の見える家族と同居している視覚障害者の場合、郵便物の整理は家族が行なうでしょう。 ただ、その整理方法が本人の望む結果になっているかどうかは、本人ですら判りません。 一人暮らしまたは同居人も視覚障害者の場合、 ホームヘルパーの来訪時に郵便物を読んでもらうという方法がよく取られます。 しかし、すべての郵便物をホームヘルパーさんに読んでもらうと、 ヘルパーさんの時間が郵便物の処理でとられてしまうことがあります。 一方、後述する拡大読書器や音声読書器を使って、 自分で郵便物の仕訳をする人もいます。

なお、点字のみの文書からなる郵便物は「点字郵便物」と呼ばれ、 郵便料金はかかりません。

2.2.6. パソコン

2006年の厚生労働省による実態調査によれば、 視覚障害者でパソコンを利用している人は全体の12.4パーセントでした。 日本の視覚障害者は約30万人いるので、 およそ4万人がパソコンを使っていることになります。

視覚障害者のパソコン利用は、1980年代半ばより、 ワープロとして使う用途から始まりました。 1990年代以後は、パソコン通信、ホームページ閲覧、電子メールなどの利用が増えています。 また、活字の印刷物を認識し読み上げるソフトも発売されたことにより、 パソコンは読書器としても利用できるようになりました。 2000年以後は電子メールとホームページ閲覧の比重が高くなり、 パソコン利用者のほとんどがインターネットにアクセスしています。 また、事務職の仕事をする人は、ワードやエクセルなどのオフィスソフトも使っています。 ほかにもパソコンは本を読んだり、ゲームを楽しんだり、 音楽を作成するなど、各個人の好みによってさまざまな用途で使われています。

パソコンは情報が画面に表示されることが多く、視覚障害者が使うためには、 さまざまな工夫が必要です。視覚障害者のIT機器の使用に関しては、 3. 視覚障害者のパソコン・インターネット利用4. 視覚障害者のための機器 で詳しく触れています。

2.2.7. 録音図書 (デイジー)

全盲者が図書を読む手段、点字または音声です。 1957年に初めてオープンリールのテープに録音された図書が登場して以来、 盲人の読書手段はカセットテープ、デイジーへと進化してきました。

デイジー (DAISY)とは、1990年代初頭にスウェーデンで 開発されたデータ形式がベースになっているもので、 録音した部分に見出しやページといった指定をつけることができるものです。 従来のカセットテープでは、早送りや巻き戻しはできても、 自分の望む箇所や内容的な区切りに移動することはなかなかできませんでした。 デイジーでは、作成者が録音した音声に章や節といった見出しをつけることにより、 読者が簡単に聴きたい箇所を聴くことができるようになっています。

デイジーは通常、音楽CDと同じようなパソコン用の CD (CD-ROM) に 書き込まれて配布されますが、デイジー自身はデータ形式の規格であるため、 SDカードやUSBメモリーなどでの提供もおこなわれています。 現在は、全国各地の点字図書館が録音媒体をこれまでのカセットテープから デイジーCDに変更しつつあり、視覚障害者の音声での読書の主流は 大きな変化を迎えつつあります。 4.6. 音声機器もご覧ください。

2.2.8. 覚え書き

全盲者にとってものを書く手段は、ものを読む手段と同じで、 点字または音声によるものです。点字を習得している視覚障害者にとっては、 点字の方が音声よりも圧倒的に便利です。短い文章の場合には、点字器に 点字用紙をセットして、点筆をつかって直接紙に点字を打ちます。 学校の講義や講演などを聞きながらメモするときは、 点字ディスプレイ付きのメモ機で記録を取ることが多いようです。 4.5. 点字機器 の項もお読みください。

点字がまったく読めない、あるいは非常にゆっくりでしか読めない人は、 音声でメモを取ります。安価なICレコーダーを利用している人も多いですが、 視覚障害者用の音声再生機にはメモ機能もあり、 日付と時刻で自分の声のメモを管理することができます。 4.6. 音声機器もご覧ください。

また、点字があまり得意でない人でも、ビンやCDケースのラベルなど、 点字のタックペーパーに自分の判る文字を書いて貼り付けておくことも よく行なわれます。これらのラベルに音声タグを付ける機器も販売されています。

2.3. 日常生活全般

2.3.1. 買い物

視覚障害者は単独での買い物が苦手です。 自立歩行のできる盲人であっても、お店にたどり着いてから商品を選ぶのがひと苦労です。 昔ながらの商店なら、店員さんと会話しながら品を選ぶこともできるのですが、 スーパーやコンビニといったセルフ形式のお店では、全盲者はほぼお手上げ状態です。

コンビニの店内

そこで期待されるのがネットショッピングです。 自宅にいながら商品は配達してもらえるので、 白杖を突きながら買い物袋を自宅まで持って帰る必要もありません。 ネットショッピングについては、のちに 3.5.2. ショッピングサイト の項で触れます。

2.3.2. 料理

視覚障害者も料理をします。目が見えないで火を使うのは 危険なように見えるかもしれませんが、特別な道具を使わなくとも、 さまざまな工夫をすれば料理はできます。盲人は火加減、煮え加減、 焼き加減を確かめる手段として、音や厚さ、匂いを頼りにします。 かなり手慣れた包丁さばきをする人もいます。

盲人用のはかりやしょうゆ差しなどの道具も販売されていますが、 多くの盲人はごく普通の調理器具と創意工夫によって料理を楽しんでいます。 ガスコンロを使っている人もまだ多いです。 最近では電磁調理器の利用者も増えてきました。電子レンジはとても便利ですが、 スイッチの多い液晶ディスプレイのついた高機能電子レンジはむしろ使いにくいです。

2.3.3. 家電製品の使用

ほとんどの家電製品は盲人にとっても便利に使えます。 盲人にとって使いやすい機器は、ボタンを押すだけですぐに動作・停止し、 動いているかどうかが音を聞けばわかるようなものです。 いっぽう使いにくい機器は、ランプや液晶画面を見ないと動いているのかどうか わかりにくかったり、設定などで複雑なボタン操作を必要とするものです。 たとえば炊飯器や電子レンジなどは、時間をボタンで入力する 現代風の機種よりも、古くからあるダイヤルで時間が 調整できるようなもののほうが好まれます。 弱視の人にとっては、液晶表示があっても見にくい場合があります。

ボタン式の電子レンジ

テレビやオーディオ機器、DVDプレイヤーなどは 画面表示を見ないと一部の操作ができない機種がありますが、 こういった機械も基本的な操作がボタンだけでできるようになっていると 盲人にとっては便利です。操作パネルやリモコンに点字のラベルを 貼りつけたりなど、工夫して使っている人もいます。

2.3.4. 整理整頓

視覚障害者の生活にとって、整理整頓はとても重要です。 ものをあちこち探しまわらなくてすむよう、 同じものをつねに決まった場所に置いておくことが必要です。 普段置いている場所と違うところに置かれると見つからなくて困りますし、 家や会社などで、普段は通路になっているところに物が置かれると、 つまづいたり、ふんづけたりしてしまいます。 とくにリモコンのような小さなもので、場所があちこち変わるものは 要注意です。私は一度空調のリモコンが見つからず、 冷房を切ることができなくて困った経験があります。

音を出させてものを探す、という機械もありますが、 視覚障害者の間でもそれほど普及しているわけではありません。 これは目の見える人でもやりますが、 せいぜい携帯電話が部屋の中のどこにあるかわからないときに、 電話をかけて探す、ということぐらいです。

2.3.5. 趣味

視覚障害者の趣味は千差万別です。 音楽系の趣味を持つ人が比較的多いかも知れませんが、 スポーツで活発に運動している人も多く、 その範囲は晴眼者と比べてもひけを取りません。 これらの趣味は、一人で楽しんでいる人も少なくありませんが、 視覚障害者とそれをサポートする人達が一緒になって楽しんでいる サークルも全国各地に存在します。 視覚障害者用のゲームやトランプ、パズルなども販売されています。

マラソンをする筆者

2.4. 職業

2006年に行われた厚生労働省の身体障害児・者実態調査によれば、 18歳以上の視覚障害者の就労者の割合は 21.4 パーセントです。 この比率は、海外の視覚障害者の就労率よりも高いと言われていますが、 6割を超える日本人全体の就業率に比べれば、 まだまだ低いと言わざるを得ません。

2.4.1. 鍼灸按摩マッサージ業

上記の調査結果によれば、就労者のうちの30パーセントが 鍼灸・按摩マッサージ業に着いています。盲人の間では 「三療」 「あはき (あんま・はり・きゅう)」と呼ばれています。 按摩は世界の各地で盲人が行なっていますが、 鍼灸を盲人が職業として合法的に行なっているのは世界でも日本だけです。 鍼灸は、江戸時代に盲人の鍼医達が江戸幕府や有力大名屋敷で 主治医として働いていたことから、現在まで盲人の伝統的職業となっています。 鍼灸按摩マッサージ業の普及は、日本における盲人の就労率が 高い要因となっています。

多くの盲学校には、鍼灸按摩の勉強をするための職業訓練コースが併設されています。 これらは一般に「理療科」と呼ばれ、 高等部 (高等学校に相当) 卒業後、3年間の職業訓練コースで学び、 国家試験を受けて鍼灸と按摩、または按摩の免許を取得します。

2.4.2. 事務職

1970年代頃は盲人の事務職員は皆無に等しかったのですが、 パソコンの普及により、盲人も事務職に着けるようになりました。 ワードやエクセルの文書を作成し、ネットで情報を検索し、 メールで情報交換することが、音声だけを頼りにして行なえるようになったからです。 今では、図書館や学校など、公的機関の事務職員として働く盲人も少なくありませんし、 民間企業で働く盲人も大勢います。事務職につく盲人のために、 全国にいくつかの職業訓練所があります。

事務作業の能力を問われると、全盲者と弱視者とではその質にかなりの差があります。 弱視者はパソコンの画面を拡大したり、拡大読書器で印刷物を拡大することで、 普通の人が見えているレイアウトなどをほぼ同じ感覚で理解することができます。 一方、全盲者はレイアウトやデザイン的なものは頭の中で想像するしかないため、 ビジュアル的な結果を生み出す作業はできません。 弱視者は普通の人と同じ作業ができるけれども視力のハンディのために遅い、 全盲者は同じ作業自体ができないと考えてよいでしょう。 さて、とは言っても、全盲者の障害は目が見えないことだけです。 ですから、文章を考えたり計算をしたりなどの作業にはハンディはありません。 よって、ワードで文章を書いたり、エクセルで計算をしたりすることはできます。 つまり、見た目のデザイン性が問われない性質の事務作業は、全盲者でもできるわけです。

視覚障害者がパソコンを利用する場合、後述するように 「画面拡大ソフト」や「音声化ソフト (スクリーンリーダ)」といった ソフトウェアとあわせて使うのが一般的です。 米国製の JAWS (Job Access With Speech) という スクリーンリーダ・ソフトウェアの名前は「音声による就業」といった意味であり、 もともと盲人のための就業支援を目的として開発されました。 詳しくは、 3.2. 画面拡大ソフト3.3. 音声化ソフト の項をごらんください。

2.4.3. 専門職

専門的な技術を生かして職業人として活躍している盲人も少なくありません。

もっとも伝統的な専門職は音楽です。日本には古来から優れた盲人の音楽家がいました。 琴の流派で知られる生田流や山田流は、どちらも盲人の箏曲家が創始者です。 クラシックの分野でも、有名なピアニストやバイオリニストとして活躍している 盲人が大勢おり、日本人では和波孝禧、川畠成道、辻井伸行、 梯剛之などの演奏家がよく知られています。ポップスの分野では 世界的な有名人が多く、スティービー・ワンダーやレイ・チャールズは どなたでもご存知でしょう。

教育者として働いている盲人もいます。 日本国内で学校の教師として働いている視覚障害者は、小学校から高等学校まで 計100人以上いると推定されます。すでに教師として働いていて、中途失明した後も 働きつづけているケースと、自治体が実施する教員採用試験に点字や拡大文字などで 受検して採用されたケースとがあります。盲学校で働く教師もいれば、 一般の学校や大学で目の見える生徒たちに教えている教師もいます。 民間の学校で教員になっている盲人も僅かながら存在します。

これ以外の分野のエキスパートとしては、医師と弁護士があります。 視覚障害者の弁護士は、まだ全国でも10人に満たない数しかいませんが、 1981年に竹下義樹氏が初めて点字での司法試験受検に合格して以来、 少しずつ盲人の弁護士が登場してきています。

医師に関しては、2003年に初めて視覚障害を持つ人が 医師国家試験に合格しました。ですが、この分野では、 まだ医師として働いている視覚障害者は数名に留まっています。 このほか、作家や翻訳家、政治家 (国会議員・各地方議員)、 写真家、画家、スポーツトレーナーなどとして活躍している視覚障害者がいます。

2.5. 教育

現在、全国には 71 の盲学校があり、約3500人が在籍しています。 「視覚特別支援学校」という名前のところもあります。 盲学校には、盲以外の障害を併せもっている重複障害の生徒も在籍しています。

盲学校の在籍生徒数は年々減少してきています。 医学の進歩による幼児失明の減少と、 普通学校で学ぶ統合教育の進展によるものと考えられます。

2.5.1. 初等・中等教育

多くの盲学校には幼稚部と小学部が設置されており、 幼児期から小学校6年までの教育を受けています。 一方、1970年代に初めて普通小学校に通う盲人の児童が現れてから、 統合教育運動の進展とともに、その後じょじょに普通学校に 通う児童数が増えています。現在は、 インクルーシブ教育の考え方の下に、 普通学校での盲児の受け入れ状況も改善してきています。 幼児から目が見えない児童は、学校で点字を学ぶため、 成人してからも点字利用者になります。

中学校を中心とする中等教育も、初等教育と同様、 盲学校の在籍生徒数が減少し、普通中学校で学ぶ生徒が少しずつ増えています。 勉強のできる生徒は、盲学校から普通学校に転校する傾向があるようです。

2.5.2. 高等教育

一般大学に進学する視覚障害者は毎年60~70人ぐらいいます。 全盲の人は点字で、弱視の人は拡大文字または普通の答案用紙で受検して入学しています。 全国に1校だけ、視覚障害者と聴覚障害者だけを対象とした筑波技術大学があります。

2.6. 関連団体

視覚障害者のための団体は日本各地に沢山あるので、 ここではそのごく一部を紹介するにとどめます。 ほとんどの団体は公的なものではなく、社会福祉法人などの NPO です。 また、日本全国をカバーする統一した組織というものは少なく、 多くの当事者団体・支援団体は地域ごとに設立され、 障害者に密着した活動をおこなっています。

盲人当事者による団体

視覚障害者の支援団体

視覚障害者のための図書館・情報提供サイト

3. 視覚障害者のパソコン・インターネット利用

3.1. 視覚障害者とパソコン

パソコンやインターネットの普及は障害者にとって またとない恩恵をもたらしました。電子化された書籍や インターネット上のニュースサイトなどにより、 いまや視覚障害者も紙の新聞や雑誌と同じような 情報を瞬時に得ることができますし、ワープロや電子メールのおかげで 晴眼者と同じく手紙や文書を送ることができるようになりました。 また、ネットショッピングによる買い物は、外出が苦手な視覚障害者にとって 自立生活のための助けになるのではないかと期待されています。

視覚障害者が使うパソコンも、一般的なパソコンと何ら変わるところのない、 普通のパソコンです。 文字の入力に関しては、全盲のユーザは各キーの位置を覚えて使いますが、 弱視ユーザの場合は、文字が大きく描かれたキーボードを使うことがあります。 しかし、問題は情報の出力です。 パソコンは大量の情報を画面に表示することが多いため、 そのままでは視覚障害者が使うのは困難です。 通常は「画面拡大ソフト」や「音声化ソフト」と呼ばれる 特別なソフトウェアをインストールして使います。 画面拡大ソフトはパソコン用の拡大読書器のようなものであり、 音声化ソフトは、その名のとおりパソコンを音声だけで使うことを可能にします。 以下の項では、これらのソフトウェアについて説明します。

3.2. 画面拡大ソフト

画面拡大ソフトは、その名のとおり画面に表示されるものを 拡大するソフトウェアで、おもに弱視のユーザによって使われています。 簡易な画面拡大ソフトはたいていのパソコンに標準搭載されており、 たとえば、Windows パソコンでは「拡大鏡」というアプリケーションがそれにあたります。

Windows標準の画面拡大ソフトを使用しているところ

しかし、標準の画面拡大ソフトでは拡大した文字がギザギザに表示されてしまうなど、 長時間にわたって見つづけるのは難しい面があります。 また、一度に拡大できるのは表示されている部分の一部に限られるため、 画面上のあちこちにマウスを移動しなければならない場合など、 ストレスを感じる人が多いようです。業務でパソコンを長時間使っている人の中には、 こういった欠点を改善したより高度な画面拡大ソフトを利用している人もいます。

3.3. 音声化ソフト (スクリーンリーダ)

パソコンの画面がまったく見えない盲人の場合は、 画面に表示される内容をすべて音声で読み上げる 「音声化ソフト」というものを使います。 「スクリーンリーダ」とも呼ばれます。 これは全盲者がパソコンを利用する上で必須のソフトウェアとなっています。 パソコンに音声化ソフトをインストールすると、 動作そのものは通常のパソコンと何ら変化はありませんが、 画面に表示される文字に音声がつくようになります。 音声化ソフトそのものは何か特定のことをするわけではなく、 通常はこのソフトと一般的なアプリケーションソフトウェア (Microsoft Word など) を組み合わせて使います。

音声化ソフトは、単体では安価なもので4万円弱、高級なもので12万円~15万円程度です。 英語版ではフリーのものもいくつかありますが、どれも一長一短があります。 すべてのアプリケーションソフトウェアが文字を表示するわけではなく、 たとえ文字を表示したとしても視覚障害者にとってわかりやすいとは限りません。 そのため、ある音声化ソフトでは特定のアプリケーションをうまく使えるが 他のものはだめというような、ソフトウェアどうしの「相性」が存在します。 したがって、視覚障害者の間ではよく 「このソフトはスクリーンリーダーとの相性が良い/悪い」 といった会話が聞かれます。

また、現在のパソコンの操作の多くはマウスを使って行いますが、 画面が見えないユーザの場合、マウスを使うことはできませんので、 おもにキーボードを使って操作することになります。 しかし、マウスを使わないとできない操作があるソフトウェアが まだ多く存在しており、こういったソフトウェアを視覚障害者が使いこなすのは至難の業です。

3.4. 文字認識ソフト

盲人がパソコンを使うときに比較的よく利用されるのが 文字認識 (OCR) ソフトです。 これはスキャンされた画像から文字を抽出するソフトで、 音声化ソフトと組み合わせることで印刷物を音声で読むことができます。 視覚障害者にとっては、家族やヘルパーさんの代わりに印刷物を読んでくれる存在です。 価格は6万円~9万円前後です。 インターネットがまだそれほど普及していなかったころは、 視覚障害者にとってのパソコンのおもな用途といえば文字認識ソフトでしたが、 パソコンユーザ以外の視覚障害者にとっても重要な生活補助具のため、 最近ではパソコンを必要としない専用の印刷物読み上げ装置 (音声読書器) も普及してきています。 詳しくは、4.3.2. 音声読書器の項もご覧ください。

3.5. ホームページ閲覧ソフト

2007年におこなわれた調査によると、 視覚障害のパソコン利用者のほとんどがインターネットを利用しています。 現在は、パソコンの音声化ソフトや視覚障害者用の音声ブラウザを用いて、 多くのホームページを閲覧できるようになりました。 ホームページ閲覧ソフトとは、文字どおりインターネットの ホームページを閲覧するためのソフトですが、視覚障害者の中には 普通の Internet Explorer や Mozilla Firefox などのブラウザを 音声化ソフトで利用している人と、視覚障害者向け専用に開発された いわゆる「音声ブラウザ」を利用している人とがいます。 これは、ホームページを見るという操作がやや特殊であるためです。 視覚障害者向けの音声ブラウザの価格帯は約3万円ほどです。

他のパソコンソフトと同様に、インターネットのホームページにも 視覚障害者にとって理解しやすいものと、理解しにくいものがあります。 ここにも音声ブラウザとホームページとの「相性」があるわけです。 ホームページの中には画像を多用していたり、マウスでクリックしないと 先に進めなかったりなど、かならずしも音声ブラウザで使いやすいものばかりとは 限りません。そのため、最近は誰にでも読みやすいウェブサイトを作ろうという 「ウェブアクセシビリティ」の考え方が重視されてきています。

以下に視覚障害者がよく利用するウェブサイトを挙げます。

3.5.1. ニュースサイト

インターネットが登場するまで、視覚障害者にとって新聞というのは あまりなじみのない存在でした。しかし現在では新聞社が運営する ホームページにアクセスすることにより、最新のニュースを 簡単に読むことができるようになっています。

大手新聞社のウェブサイトはウェブアクセシビリティを考えて 作られていることが多いためか、ニュースサイトは一般的に視覚障害者にとって 聞き易いです。最近は有料のページも増えていきていますが、有料のサイトだからといって 必ずしもより聞きやすくなっているとは限りません。

3.5.2. ショッピングサイト

視覚障害者は買い物が苦手だということは前に述べました。 まずお店に行くまでが大変ですし、お店にたどり着いてからも商品を選ぶのがひと苦労です。 しかしネットショッピングなら、パソコンの音声を頼りにメニューからじっくり商品を選び、 自分で購入することができます。商品の種類が多い場合でも、 品名やメーカー名で検索することができます。 また、商品は配達してもらえますから、 白杖を突きながら苦労して重いものを運ぶ必要もありません。

ネットショッピングサイトの例

ところが、たいていのショッピングサイトは、住所やクレジットカード情報など 入力が必要な項目が多数あり、また、お金の支払いを伴うため、 セキュリティー面の管理が厳しいためもあって、音声ブラウザでの操作は かなり困難であるというのが実情です。 また、検索する際にも本来の商品とは関係のない広告や お知らせが多数掲載されていて、ニュースサイトのように すんなり理解できるというわけではありません。 日本の代表的なショッピングサイトであるアマゾンや楽天といったサイトでも 難易度が高く、利用しているのはそれなりにパソコンが得意な視覚障害者に限られます。 大部分のユーザはまだショッピングサイトを使っていないか、 比較的操作しやすいサイトだけを選んで利用しているというのが現状です。

3.5.3. サピエ

全国視覚障害者情報提供施設協会 (全視情協) が運営するサイト「サピエ」は、 視覚障害者専用の電子図書館です。ここでは数万点におよぶ 市販の印刷物を音声または点字に変換したデータを提供しており、 視覚障害者であれば誰でもここからデータをダウンロードして、 点字または音声の形式で読むことができるようになっています。

現在、サピエの電子図書はほぼ無償で視覚障害者に提供されています。 これは平成21年におこなわれた著作権法の改正によって、 視覚障害者を含む障害者に対して、より多様な形で情報を 提供できることになったためです。

3.5.4. 動画サイト

こんにち、動画サイトはインターネット上のポピュラーな娯楽のひとつですが、 全盲者もまた動画サイトにアクセスします。ちょうどテレビを見るのと同じように、 動画もまた音声で楽しめる部分があるからです。 動画サイトの場合、サイトの作り方によっては視覚障害者が利用している 音声ブラウザではうまく閲覧できない場合があり、ここでもウェブアクセシビリティの 考え方が重視されてきています。

3.6. 電子メール

電子メールは、活動的な視覚障害者にとって必須のツールになっています。 パソコンのメールだけを利用する人、携帯のメールだけを利用する人、 両方を利用する人がいますが、いずれの場合も、 全盲者や強度の弱視者は音声の出るソフトや機器を利用しています。

パソコンでメールを使う場合、音声化ソフトを利用して Outlook など通常のメーラソフトを使う人もいますが、 ホームページの閲覧と同様に、電子メールも 視覚障害者向けに作られたソフトが存在します。

3.7. Skype・チャット

Skype (スカイプ) はインターネットを使って音声または動画で 通信できるソフトウェアで、通常の電話料金がかからず通話できるため、 視覚障害者のパソコンユーザーの間でもじょじょに 利用者が増えているようです。

文字入力によるチャットを楽しむ視覚障害者もいますが、 こちらはやや煩雑なため、聴覚障害者のパソコンユーザと 比べるとそれほど盛んではありません。

3.8. スマートフォン

盲人はタッチパネルが苦手です。 画面が見えないうえに、通常のボタンと違って 押すところに手がかりがなく、たとえ押したとしても 本当に正しい部分を押したのかどうか、すぐにはわかりません。

Apple社のiPhoneは、音声化ソフトであるVoiceOver機能が 標準搭載されているため、ある程度の操作は最初から音声ガイドで使うことができます。 いっぽうAndroidのスマートフォン用には、インストールして使う 音声化ソフトが販売されています。いずれの機種でも、 全盲のユーザはまだ少ないのが現状です。 スマートフォンといえば、いろいろ便利な「アプリ」をインストールして 使うのが一般的ですが、すべてのアプリが音声に対応しているわけではありません。 ちょうどパソコンの音声化ソフトと同じく 「音声で使いやすいアプリ、使いにくいアプリ」といったものがあります。 最近では急速に普及しているスマートフォンですが、まだ盲人にとっては なかなか便利に使うといったわけにはいかないようです。

3.9. パソコンにおける点字の利用

現在のパソコンユーザのほとんどは、音声化ソフトを使って 日本語の音声でパソコンを操作していますが、 パソコンで点字を扱いたいという盲人もいます。 昔から点字をタイプするのに「6点入力」という方式があり、 パソコンソフトの中にはキーボード上の6個のキーを使って、 点字入力ができるようになっているものがあります。

パソコンから点字を出力する時は 点字プリンタや点字ディスプレイといった機器を使います。 点字図書の作成など、視覚障害者を支援するボランティアが使っている 点訳支援ソフトウェアや、自動点訳ソフトウェアも販売されています。

パソコンと接続して点字を出力する機器については、 4.5.3. 点字プリンタ4.5.4. 点字ディスプレイ の項もお読みください。

4. 視覚障害者のための機器

4.1. 白杖

盲人のシンボルともいえる白杖は、盲人が日常生活をするうえで 非常になじみぶかい存在であり、盲人はどこへ行くときでも 必ず白杖をもって外出します。白杖には棒状のものと、 折りたたみ可能なものがあり、取っ手がついているものや 長さが変えられるものもあります。材質も金属のものからカーボン製のもの、 グリップの形状が異なるものなど、ひとくちに白杖といっても 多くの種類があります。

白杖は物理的にあちこちぶつけたり、時にはうっかり折ってしまったりするので、 比較的頻繁に買うものです。盲人にとっては、消耗品といってもいいかもしれません。 白杖の価格は安いものでは1本数千円からで、盲人は長さや重さ、丈夫さなどを 値段と相談のうえで自分の使う白杖を決めます。

4.2. 拡大鏡 (ルーペ)

弱視者の中には、文字を拡大して見るための拡大鏡 (ルーペ) を 携帯している人がいます。日本語では単に「ルーペ」というと虫眼鏡の意味で 使われることもありますが、弱視者にとってのルーペは一般的に より高い倍率のレンズを使っており、レンズの倍率が変えられるものや、 照明がついているものなど、多くの種類があります。

4.3. 読書器

4.3.1. 拡大読書器

印刷物を拡大して表示する機器で、弱視者が利用します。 卓上に設置して大きな画面で見る据え置き型のものと、 持ち運びのできる携帯型のものがあります。 据え置き型の拡大読書器には、17インチから22インチ程度の画面がついています。 携帯型の拡大読書器では、大きなもので4インチ、 形態性を重視したものでは3インチ程度のものが主流です。 携帯型の拡大読書器は、弱視者が使う光学式のルーペと対比して 「電子ルーペ」と呼ばれることもあります。

据え置き型の拡大読書器は一般に大きな機械ですが、 じっくりものを読むのに適しています。また、画面を見ながら映し出された 書類に書き込むことができるという大きなメリットがあります。 携帯型のものの場合は、書き込みはしにくいのが普通です。 価格は、据え置き型の拡大読書器が20万円程度、 携帯型のものでは2万円程度から20万円程度までとなっています。 日常生活用具給付制度により、障害者手帳の保有者は 購入の際に自治体からの補助を受けることができます。

4.3.2. 音声読書器

近年になって登場した新しいタイプの読書器として、 音声読書器があります。これは活字がまったく読めない全盲者に対して、 印刷物の内容を声で読んで聞かせるもので、これによって盲人でも 市販されている普通の本を買って読書できるようになりました。 音声読書器は、一般に印刷物を読み取るためのスキャナと コンピュータを内蔵しており、読み取った文字を認識して電子音声で読み上げます。

最近の音声合成技術は格段に進歩しており、 人間の肉声にかなり近い読み上げができるようになりました。 また、文字認識技術も手書き文字が認識できるようになるなど、 進歩を続けています。

4.4. 時計

盲人用の時計には大きく分けて2種類あります。 音声を使って時刻を伝える音声時計と、時計の針をさわって時刻を確認する触時計です。 音声時計は、ボタンを押すと現在の時刻を「10時20分です」のように、 日本語で喋って伝えます。触時計は一見すると普通の アナログ腕時計ですが、文字盤を覆っているガラスが開くように作られており、 盲人はこれで時計の長針・短針に直接触れて時刻を知ることができます。

触時計を使っているところ

最近では、振動を使って時刻を伝える新しいタイプの時計も登場しました。 これは、ボタンを押すと機械自体が振動して時刻を知らせます。

4.5. 点字機器

4.5.1. 点字器

点字を使用する盲人にとって、点字を書く (打つ) ための 道具は欠かせないものです。もっとも原始的な方法はマスのついた 「点字盤」と針のような 「点筆」を使って一点、一点ずつ打っていくもので、 これらをひとまとめにしたものが「点字器」として販売されています。

4.5.2. 点字タイプライタ

点字器を使った方法では、読むときのことを考えて 裏面から左右逆向きに打っていかなければなりませんので、 慣れるまでは結構面倒です。もっと効率的な方法としては、 点字タイプライタがあります。これはキーボードを使って 点字を打っていくもので、6個の点にそれぞれ対応するキーを 同時に押していくことで、紙に点字が刻印されます。 代表的なものとしては、米国のパーキンス盲学校で開発された 「パーキンスブレイラー」がありますが、これ以外にもいくつかの 点字タイプライタがあります。

点字タイプライタや、後述する点字プリンタで使う用紙は、 一般的には「点字用紙」と呼ばれる、やや厚めの紙になっています。

4.5.3. 点字プリンタ

点字プリンタは、その名のとおり点字のためのプリンタです。 パソコンと接続し、点字を自動で印刷することができます。 内部では機械的に点字を刻印しているため、 通常のプリンタと比べるとそれほど速くはありません。 また、動作中は大きな音がするので通常は点字プリンタ専用の 防音ケースの中に入れて使います。 点字プリンタの価格は安いもので30万円から、 高いものだと100万円以上のものまであります。

点字プリンタとキャビネット

点字プリンタには片面だけに点字が刻印できるもの、 両面に刻印できるものとがあり、印刷する点字のサイズも 日本の機器と欧米の機器では異なっていることがあります。 また、点字プリンタで印刷できるのは一般的には点字だけなので、 通常のワープロ文書などはあらかじめ点字データに変換 (点訳) しておく必要があります。 点字と活字を重ねて同時に印刷できる機種や、 点による図形 (点図) が印刷可能な機種もあります。 点字プリンタを使うには、専用の点字印刷ソフトウェアが必要です。

4.5.4. 点字ディスプレイ

点字ディスプレイは、パソコンと接続して点字の情報を リアルタイムに出力できる機械です。パソコンの指示により 内部のピンを機械的に上げ下げし、表示されている点字の内容を 瞬時に切り替えることができます。たいていの点字ディスプレイには、 点字を入力するためのキーボードがついており、 多くの機種では、パソコンがなくても自分で入力した 点字のメモを表示する機能が搭載されています。

点字ディスプレイを使っているところ

点字ディスプレイは、価格が20万円から60万円程度と 高価なことが多いのですが、これは点字ディスプレイに使われているセル (移動するピンの部分) が、長期間にわたって高速かつ確実に 動きつづけなければならず、精巧さが要求されるためです。 このように高額な機器ですが、点字利用者にとっては 音声による読み上げよりも速く、確実に情報を得られることが多いため、 点字ディスプレイはパソコンを活用している盲人や盲ろう者によく使われています。

4.6. 音声機器

音の頼ることの多い盲人にとって、音を記録したり再生したりする機器は 日常生活上のちょっとしたメモから録音図書の読書まで、幅広い用途があります。 以前はカセットテープレコーダーがこの分野の代表的な機器でしたが、 現在ではICレコーダー、MP3再生機やデイジー (DAISY) 再生機が これにとって代わりました。ICレコーダーの中にはMP3再生機の 機能をもつものもありますし、デイジー再生機の中には、視覚障害者向けのデータ図書館 「サピエ」から電子図書を直接ダウンロードして再生できるものもあります。 視覚障害者向けの録音・再生機の価格帯は3万円から8万円台です。

また、録音図書を製作するボランティア (音訳ボランティア) の方々向けの 機器もあります。録音図書も以前はカセットテープが一般的でしたが、 現在ではデジタル録音によるデイジー (DAISY) 形式が主流になっており、 このためには音声の録音機やマイク、編集機材などが必要です。 本格的な録音図書の作成は、パソコンにマイクをつないで朗読したものを録音し、 それを専用のソフトウェアで編集する作業が一般的ですが、 これよりも手軽に録音図書を作るための機器も販売されています。 こうした機器は、全国各地の音訳ボランティアグループや 点字図書館によって使われています。

4.7. 携帯型端末

上記の点字ディスプレイや音声機器、 およびインターネット機能などをすべてひとつの機械に内蔵した、 視覚障害者用の携帯型端末と呼ばれる機器もあります。 こういった機器は高額ですが、外出先で書類の作成や 電子メールのチェックなどができるので、活動的な盲人や 視覚障害をもつ大学生などに利用されています。