2009年2月25日(水)
障害者雇用促進セミナー(南部労政会館)にて
東京中小企業家同友会 障害者委員会 委員長
株式会社アメディア代表取締役望月 優
1. アメディアの事業概要
株式会社アメディアは、1989年2月に視覚障害者の情報環境をパソコンでサポートすることを目的として設立しました。
当初は、当時販売されていた視覚障害者用のソフトウェアとパソコンとプリンタなどの周辺機器をセットで販売し、設置して使い方を教えるというビジネス・モデルでスタートしました。
事業を進めていく中で、もっと便利な環境をということで、いろいろなソフトウェアを自社で開発するようになりました。
1996年9月に発売した印刷物読み上げソフトの「ヨメール」、1999年1月に発売したホームページ読み上げソフトの「ボイスサーフィン」、2003年8月に発売した音声拡大読書機「よむべえ」などが主な自社開発製品です。
2. アメディアの社員
第1号社員は視覚障害者、会社設立当初は、目の見えない私と全盲社員の二人でスタートしました。
その後徐々に社員が増えて行きましたが、設立後10年までは視覚障害者と晴眼者が半々で増えて行きました。
1999年から2003年までが大きな経営不振の時期で、この期間に多くの視覚障害者社員が退職してスタッフ構成が健常者中心になりました。
2005年3月にJHC板橋会の運営するワーキングトライから精神障害の方を一人紹介を受け、約1ヶ月の実習後にパート採用しました。
2007年12月に初めて永福学園から知的障害生徒の実習を受け入れ、これまでに3回受け入れています。
2008年5月に二人目の精神障害の方を今度は職安に募集を掛けてパートで採用しました。
3. 経営と障害者雇用
アメディアでは、当初から視覚障害者を多数雇用していましたが、これは、ビジネスの顧客が視覚障害者ということなので、当然のことと言えます。
1999年以降多くの視覚障害者が退社しましたが、これは、経営の失敗から生じた事態でした。
アメディアを設立10年まで支えてきた主戦力は間違いなく視覚障害者の社員でした。
2002年に東京中小企業家同友会に入会し、経営の本質を学ぶ中でようやく2005年に本来の意味での障害者雇用を実現しました。
現在は、視覚障害のフルタイム社員1名、視覚障害のパートタイム社員1名、精神障害のパートタイム社員2名とフルタイムの健常者8名、パートタイムの健常者2名で運営しています。
まだ知的障害の方を採用したことがなく、永福学園から3名を実習で受け入れたことがあるだけです。
さて、アメディアにとって視覚障害者はターゲット顧客と同じ属性を持つ社員であり、会社にとって必須だということは言うまでもありません。
障害者雇用は経営体質を強くすると考えますが、その意味での真の障害者雇用は2005年に精神障害の方を雇ったところから始まると言えます。
2005年に彼を受け入れたときは、社内の役職者の会議で問うたところ、全体として受入に前向きな雰囲気ではありませんでした。
2008年に二人目の精神障害者を募集するときは、私からの主働は全くなく、以前精神障害者の受入に怖気づいていた社員の提案で行なわれました。
この間、永福学園の生徒の実習も行っておりましたが、これらにより、社内の多様性の受け入れ体質が強化されたと考えます。
4. 人材を育てる7・3の法則
おりしも2005年1月から、社員の評価制度をスタートしていました。
半年ごとに「成長評価シート」に従って自己評価をつけてもらい、その後で、同じシートの上司評価欄に直属の上司が、社長評価欄に私が評価を付けて、部長職以上の3名で評価会議を行なって最終評価を決定するという仕組みです。
その中で、精神障害の社員は特に自己評価が低いことに気付きました。
また、その他の社員も自己評価が高い人と低い人がいますが、以前よりも自己評価が低くなった社員には特に気配りする必要があると感じています。
自己評価が低いということは、自分に自信がない状態だということだからです。
私は、会社のエネルギーは社員みんなのエネルギーの総和であり、社員みんなのエネルギーが会社の業績を支えていると確信しています。
であれば、社員個々の心のエネルギーを常に高め、社員一人一人が成長し続ける環境を作りたいと考えています。
精神障害者は、心のエネルギーという面での「障害」を抱えています。だからこそ、そのような社員の心のエネルギーを高めることができれば、どんな社員でもエネルギーを高められるという経営者としての自信が付きます。
私は、今、その点で挑戦中です。
2005年に入社した社員は入社当時から比べればはるかにエネルギーの高い状態で多くの仕事をより質の高いレベルでこなしてくれています。
昨年入社の社員は、今でもときどき欠勤することがあり、まだまだひよわな状態です。彼がもっともっとエネルギー高い状態に成長してくれる職場環境にしたいと試みています。
同時に、ほかにもまだまだ元気の足りない社員、物事を否定的に捉える社員がいます。これらの社員が皆より前向きになり、元気でエネルギーの高い状態になるよう努力しています。
そして、その努力の方向性のキーワードとして、「7・3の法則」ということを考えています。
私は、新年の社員への挨拶で、次のような話をしました。
新年の挨拶から一部引用
私たちみんながより高いエネルギーを発することによって、そしてそのエネルギーが調和した形で会社の目標に集中することによって、会社も大きく業績アップへのステップを踏みます。
ですから、仕事とは直接関係のないパーソナルな目標も、私は大切にしたいのです。パーソナルな目標が、私たち一人一人の生きるエネルギーを生み出すからです。
目標を持ってそれに向かって挑戦しつづけていると人は成長します。
成長しつつある自分が実感できると、人生が楽しくなります。
皆さんが楽しい気持ちを持って仕事に当たることができる状態を私は目指しています。
いけないのは、現状に満足しきってしまい、自分はこのままでいいや、と思うことです。
その状態は、進化の逆の退化への道に踏み込んでいます。
現状のままでよいという気持ちでは、現状を維持することさえ難しいのです。
ただ、現状が不満ばかりという状態はさらに不健全です。
不満ばかりの状態からは、進歩への具体的な行動が出ません。
心に不満が満ち溢れていると、周囲に対してもマイナスの気を発して、周りの雰囲気までをも悪くしてしまいます。
一番よいのは、7割型は満足しているが、後3割を改善したいという心のバランス状態です。
7割満足、3割進歩したい、7・3の法則です。
7割満足していれば、未達成の3割の部分は不満にはならず、前向きな気持ちで「これから歩く道」になるのです。
3割の「これから歩む道」は、進歩する余地でもあります。
進歩する余地、成長する余地を常に保ちつつ、目標に向かって一歩ずつ進んでいく、そのように自分の心の状態を常にコントロールしていれば、私たちは成長しつづけますし、その自分を感じるのが楽しくなってきます。
目標に向かっている状態であっても、一つだけ気をつけたいのは、以前の自分よりも成長しているのに、自分の目標値と現在の自分との位置が遠すぎて、自分をマイナスにみてしまうという状態です。
この状態から不満が募ると、毎日が不満や自己否定的な考えにさいなまれるようになり、その心の状態が自分を退化への道へと引きずり込もうとします。
現状の自分と目標値とが遠すぎるという状態は、人と自分とを比較することからよく生じます。
人と自分とを比較してはいけません。比較した人がすばらしければ自分がだめなように思えますし、逆に比較した人が自分の目からはだめだなと感じれば、自分が思い上がる原因となります。
比較するのは以前の自分です。
以前の自分と今の自分とは違っていて良いのです。
以前の自分よりも成長している側面を見出したとき、今の自分に対する不満な面がある程度あったとしても、自分自身を肯定することができます。
このようにして、7・3の法則を自分の心の状態管理に採用してみてください。
自分を肯定する割合が7、進歩に向かって歩く道が残りの3です。
アメディアは、現在、
- 社員が成長し続けることのできる会社
- 社員が人々への貢献を実感できる会社
を目指しています。
5. ダイバシティーマネジメントからの評価
昨年、東京中小企業家同友会で「ダイバシティーマネジメント」の一人者である早稲田大学の谷口真美先生を及びして例会を行ないました。
ダイバシティーマネジメントは、多様性を戦略的に導入することによって、会社の社会への変化耐応力が増し、経営体質が強くなるという経営論です。
「多様性」には、女性、外国人、高齢者などが位置付けられますが、当然障害者もその対象です。
ダイバシティーな組織は、
抵抗→同化→分離→統合
という段階を踏んで進歩していくそうです。
障害者雇用の段階と照らし合わせると、
抵抗仝雇用していない状態
同化仝雇用したが職場は全く変えずに障害者側の同化だけを求めている状態
分離仝雇用して本人の特性に合わせた仕事をさせている状態
統合仝その障害者を含む職場チーム全体の業務分担を見直した結果、チーム全体での効果性がもっとも高くなった状態
と考えます。
「障害者雇用」という観点では、分利の段階ですでに達成されています。
「良い経営」を目指すとき、統合へとステップを踏みます。
アメディアは、今、分離から統合へと進歩しようとしてあがいている状態です。
そして、これからお話される大山さんの日本理化学工業は、統合の段階に達している会社です。
私もよく聞いて学びたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。