視覚障害者と最新情報機器について

2007年8月1日

東京都委託点訳奉仕員指導者養成講習会

日盲福祉センターにて

望月優

点訳者、音訳者に関係する著作権法概略

2007年7月1日に改正著作権法が施行され、点字図書館などでの録音図書のインターネット配信が認められました。

---- 著作権法第三十七条の3 ----------

3 点字図書館その他の視覚障害者の福祉の増進を目的とする施設で政令で定めるものにおいては、公表された著作物について、専ら視覚障害者向けの貸出しの用若しくは自動公衆送信(送信可能化を含む。以下この項において同じ。)の用に供するために録音し、又は専ら視覚障害者の用に供するために、その録音物を用いて自動公衆送信を行うことができる。


ということで、デイジーでの録音図書を配信しているビブリオネットで聴くことのできるタイトルが7月から一気に増えました。

ビブリオネット

ただ、これは、点字図書館などの政令で定める施設に認められたものであって、音訳ボランティアに認められたものではありません。

一方、点訳に関しては、点字図書館などの施設にだけではなく、点訳ボランティアをはじめ、誰にでも複製すること、インターネットなどで配信することが認められています。

---- 著作権法第三十七条とその2 ------

第三十七条

公表された著作物は、点字により複製することができる。

2 公表された著作物については、電子計算機を用いて点字を処理する方式により、記録媒体に記録し、又は公衆送信(放送又は有線放送を除き、自動公衆送信の場合にあつては送信可能化を含む。)を行うことができる。


つまり、音訳活動においては、視覚障害者にコンテンツを提供するとき著作権の許諾を取る必要がある、

点訳活動においては、著作権の許諾を取る必要がない、

というのが私達と著作権との関係の大筋です。

ただ、音訳活動においても、対面朗読をするときに著作権の許諾を求める必要はありません。

また、一人の視覚障害者の求めに応じて音訳コンテンツを作るときにも、事実上著作権許諾を取る必要はありません。

---- 第三十条 ------------------------

第三十条

著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。


上の条文では、「その使用する者が複製することができる」となっており、本人でないと複製してはいけないように読めますが、ボランティア活動をされている皆さんが1対1の関係で行なった音訳について著作権のクレームがついたことはこれまでありませんので、大丈夫です。

ですが、一人の方のために録音したコンテンツをほかの人にも貸し出そうとするときには、著作権の許諾が必要になります。

実際は、たまたまもう一人の方に既に音訳したものを提供しようというぐらいなら問題は表面化しませんが、文庫活動をスタートして、不特定多数の方に貸し出すことを表明するようであれば、かならず著作権の許諾が必要です。

著作権許諾の取り方

著作権の許諾は、できれば出版社にではなく、著者に出す方が良いでしょう。

出版社はどうしても自らのビジネスの利益を確保すること、著者の権利を保護することという使命を追っていますので、著作権許諾依頼がきたときに、非常に慎重になります。

私はビジネスマンなので、その感覚がよく判ります。私が出版社の担当だとしても、著作権許諾の依頼がきたとき、まずそれが会社の利益に反しないか、次にそれが著者の利益に反しないかをかなり厳しく検討すると思います。

一方、著者の場合には、自分の著作はなるべく多くの人に読んでもらいたいと思っているわけですから、承諾してくれる可能性がより高くなります。

ただ、著者が許諾してくれるかどうかは、許諾以来の手紙を読んだときの著者の気持ちに大きく左右されます。

人間は心の動物ですから、この手紙を読んだ著者がどのような気持ちになるのだろうかという観点で配慮しながら許諾依頼文を書く必要があります。

「良いことをしているのだから許諾してください」とか、「視覚障害者の権利なのだから許諾してください」といった雰囲気はなるべく表に出さないようにしましょう。

もともと著者、音訳者そして依頼者の3者は著者の作品を中心に共感し会える関係にあります。

この共感の関係を生かさない手はありません。

できることなら、著者とお友達になってしまうような手紙を書きましょう。

著者が作家の方なら、

等を書いた上で、著作権の許諾をお願いするのが良いでしょう。

もちろん、視覚障害者側からのリクエストの場合には、そのことも伝えましょう。

著者が学者の方で、図書が研究論文的なものの場合には、視覚障害者のリクエストによるものでしょうから、

などを書いた上で、著作権の許諾をお願いしましょう。

この場合、うまく行けば、著者の先生と視覚障害の学生さんを結びつけることもできるかも知れません。

視覚障害の学生さんも、自分が研究するための著者となっている学者先生と知り合いになれるのは大変有意義なことです。

それぐらい著者の方と仲良くなるつもりで許諾依頼書を書くことをお勧めします。

点字プリンタの選び方

さて、ここまでは音訳と著作権の話が中心でした。

ここで、点訳者の皆さんのために、点字プリンタの話をします。

点字プリンタは点字データを用紙に打ち出す機器です。

当然ながら、この機器自体には漢字かな混じり文を分かち書きされた点字に変換する機能はありません。

そして、これらの機器を導入する際に考慮しなければならないことは、ソフトウェアとの関係です。

多くの方々は、機器自体の方に気が行ってしまい、ソフトウェアのことを考えずに機器のカタログの写真や性能のみで判断してしまうことがあるようです。

ところが、基本的な仕組みとして、パソコンから点字データを点字プリンタに送らなければ点字印刷はできません。

これらの「点字データを送る」という作業は、ソフトウェアが行うのです。

また、「点字データを送る」際には、パソコン側と点字プリンタ側での約束通りにやり取りしなければうまく行きません。パソコンがピッチャーで点字プリンタがキャッチャーです。このピッチャーは剛速球やものすごい変化球を投げるので、サインの交換がしっかりできていないと、キャッチャーは受け取れません。そのサインの交換をつかさどるのがソフトウェアです。バッテリーの相性は必須用件といえます。

よって、点字プリンタを選ぶ際には、必ずどのソフトウェアが目的とする機器に対応しているかを確認してから最終決断を下す必要があります。

一番よくある間違いは、ジュリエットやブレイルエベレストなどの両面同時印刷対応点字プリンタを購入するのに、ソフトウェアはBASEしか持っていないというようなケースです。

BASEは奇数ページを連続で打ち出してから偶数ページを後で打ち出すというような機能は持っています。実際、この機能はソフトウェアとしてはかなりレベルの高い機能です。しかし、これは同時印刷ではなく、手で裏返す方式の両面印刷のための機能です。よって、両面を本当に同時に打ち出す仕組みになっているジュリエットやブレイルエベレストには使えないのです(片面印刷やインターポイント式両面印刷なら可能)。

結局、ジュリエットやブレイルエベレストの両面同時印刷機能を日本で一般的な点字書式の32マス・18行で利用するためには、EXTRAやブレイルスターなど、これらの点字プリンタに明示的に対応しているソフトウェアを使う必要があるのです。

それでは、現在よく使われている点字プリンタを具体的に例示します。

A.裏返し方式の両面印刷ができる点字プリンタ

品名税込み価格対応ソフトウェア
ロメオアタッシュ420,000EXTRA、ブレイルスター
ロメオプロ577,500EXTRA、ブレイルスタータックペーパー対応
ESA7211,018,500EXTRA、ブレイルスター、IBM点字編集システム
DOG-BASIC32相談(以前1,008,000)EXTRA、ブレイルスター

B.両面同時印刷ができる点字プリンタ

品名税込み価格対応ソフトウェア備考
ベーシック-D598,500EXTRA、ブレイルスター
ブレイルエベレスト724,500EXTRA、ブレイルスター単票専用
ジュリエットプロ899,850EXTRA、ブレイルスタータックペーパー対応
DOG-PRO32W相談(以前1,680,000)***

C.墨字との併記のできる点字プリンタ

この種のプリンタは、ソフトウェアとの関係が非常に複雑ですので、具体的にはメーカーに問い合わせてください。

品名税込み価格メーカー備考
オーツキプリンタBT-2000900,300テクノエイトカタカナとの併記
オーツキプリンタBT-201テクノエイト1,029,000漢字かな混じりとの併記
DOG-MULTI価格相談日本テレソフト

広がるデイジー

さて、ここで、もう一度音訳に関係の深い話をしましょう。

今度は、デイジーの話です。

日本点字図書館が2011年3月でカセットテープによる図書の提供を終了すると発表しました。

ほかの点字図書館もこの動きについづいしていくことと思います。

その要因は、デイジーの普及にあります。

デイジーは、録音するときに見出しやページなどのマークを付けることができるため、読者はその見出しやページを頼りにコンテンツの中を自由に移動して、自分の好きなところを繰り返し聴くことができます。

この便利さは素晴らしいもので、一度デイジーを体験した私などは、もうカセットテープは聞きたくないというのが率直な気持ちです。

ですから、ここにおられる音訳者のあなたには、もしもまだデイジーでの録音をしていないのなら、是非早くデイジーに挑戦して頂きたいと思います。

また、お仲間の視覚障害者で、まだデイジーを聴く機械を持っていないという方がおられましたら、是非デイジーの機器を紹介していただければと思います。

それでは、現在手に入れることのできるデイジー機器を紹介します。

1. デイジー録音機「DR-1」

これは、音訳者向けのデイジー録音機で、今年6月に発売されたばかりの新製品です。

これまでは、デイジーで録音するのにパソコンを使う必要がありましたが、この機器の登場で、録音するときにはパソコンを使わなくてもできるようになりました。

「DR-1」ではコンパクトフラッシュカード(CFカード)に録音しますので、CDに書き込むためには、一度パソコンに取り込む必要があります。

ただ、お相手の視覚障害者が「PTR1」や「PTR2」といったCFカードをセットできる機器を持っている場合には、CFカードを直接渡して聴いてもらうことも可能です。

価格:42,000円

音訳者のあなたに快適なデイジー録音環境を提供する「DR-1」

2.デイジー編集ソフト「PRSプロ」

デイジーコンテンツをパソコン上で編集するためのソフトウェアです。

上記「DR-1」との組み合わせで利用すると、グループで効率のよい音訳が実現できます。

その流れは、

という役割分担です。

急ぎの場合には、複数の音訳者が複数のDR-1で分担音訳して、CFカードをパソコン担当にまとめて引き渡して一つのデイジーコンテンツにまとめるといったこともできます。

価格:18,900円

5ライセンス価格:78,750円

 

3.プレクストークポータブルレコーダー「PTR2」

視覚障害者向けのデイジー録音・再生機です。

操作に音声ガイダンスがついているため、視覚障害者にはとても使い易くなっています。

CDとCFカードの両方がセットできるため、この機器を持っていれば、パソコンを使わなくてもデイジーコンテンツのコピーができます。

日常生活対象製品なので、視覚障害者はおおよそ価格の1割負担で購入できます。

価格:85,000円

 

4.プレクストーク再生機「PTN1」

これは、視覚障害者向けの再生専用機です。

機械の使い方があまり得意でない視覚障害者向けに発売されたものです。

再生メディアはCDのみです。

価格:35,000円

 

5.おしゃべりレコーダー

ポケットにすっぽり収まる49グラムの小型ボイスレコーダーです。

SDカードに収められたデイジーコンテンツを再生できます。

とても小さいので、旅行中の電車の中などでデイジーコンテンツを楽しむのに最適です。

メディアがSDカードなので、点字図書館などで借りたCDからデイジーコンテンツをコピーする必要があります。

デイジーコンテンツのコピーは、SDカードをセットしたおしゃべりレコーダーをパソコンに接続して行ないます。

価格:79,800円

地域により日常生活対象品。

 

6.音声・拡大読書機「よむべえ」

本来印刷物を読み上げる読書機ですが、CDドライブがついていて、デイジーのCDを再生できます。

また、上記のオシャベリレコーダーのSDカードにデイジーコンテンツをCDから簡単にコピーできます。

価格:207,900円

地域により日常生活対象品。

 

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機器を利用した視覚障害者の情報環境

1. 音声と点字

視覚障害者個人が最終的に入手する窓口は、全て音声化点字のいずれかです。

例え人手を介さない方法での情報入手場面でも、かならず最後は音声か点字です。

音声読書機で印刷物を読んだとしても、元のメディアは印刷物ですが、最後の窓口は音声です。

ホームページの内容を点字ディスプレイで読んだ場合には、情報源はホームページですが、最後にその人に入ってくる窓口は点字です。

このように、情報の源はいろいろであっても、結局のところ、最後は点字か音声なのです。

2.情報入手の速度と正確さ

A.点字の場合

情報の入手には、速度と正確さという側面があり、視覚障害者は、それぞれの場面でどちらかをある程度犠牲にしながら、その方法を選択しています。

点字で情報を必要とする場合、点訳者に依頼して点訳の完成を待つのがもっとも正確な情報を得られます。その代わり、相当の時間を覚悟しなければなりません。

一方、OCRにかけて印刷物をテキスト化し、それを自動点訳ソフトの「EXTRA」で自動点訳させれば、1枚の印刷物なら2・3分程度、何ページにもわたるものでも、1ページ当たり3分ぐらいの時間で点字となった情報を手にすることができます。しかし、この場合、印刷物の読み取りも自動、読み取られたテキストから点字データへの変換も自動、全て人のチェックを経ずに自動で行うわけですから、相当の誤りが含まれていることを覚悟しなければなりません。

実際のところ、正しいテキストデータからの点字データへの自動点訳はかなり正確なレベルまで来ています。人の作業による点訳の場合、行飛ばしなどのミスが起こる可能性がありますが、自動点訳の場合にはそのようなミスは起きませんので、レイアウトの自動調整に多少の難があることを除けば、内容面では必ずしも人の作業の方が性格とは限らないレベルにまできているといえます。

しかしながら、印刷物をテキストデータにする場面では、どうしてもある程度の誤りが出ますし、レイアウトも自動点訳するのには適さないスタイルになります。

ですから、OCRでテキストデータにしたものを、自動点訳にかける前の編集を行い、編集後のデータを自動点訳にかけて、その後に点字データの状態で最終チェックをざっと行うというのが、現在の正確且つスピーディーに点訳する最良の方法です。

しかし、この作業の流れは、点字を熟知している人が点字データとして起こす、いわゆる従来のパソコン点訳とはスタイルが異なり、必要とする技量もまた異なる点に求められます。もっとも大切な技量は、テキストエディタの編集作業だということになります。

よって、この作業手順を取る場合には、テキスト編集の得意な人と点字を熟知している人のチームで行う必要があります。

この場合、「点字を熟知している人」の役割は、視覚障害者が受け持つこともできます。

B.音声の場合

音声の場合でも、正確さを求めるときは、有能な音訳者に音訳を依頼します。

音訳者は、読み方などの前調査を行い、録音を行い、自分で一度校正し、さらに丁寧にやるときには別の人に校正を依頼しますので、非常に正確な情報が作成されます。その代わり、それだけの時間を覚悟しなければなりません。

一方、音声読書機を使えば、書店で購入してきた直後、図書館から借りてきた直後にそれを読んで、知りたい内容を知ることができます。しかし、こちらの場合は、文字認識の誤りや読み間違いによって、誤解してしまう可能性をある程度覚悟しなければなりません。

このように、視覚障害者の読書及び文字情報の入手においては、常に速度と正確さの重み付けで、どちらかをある程度犠牲にして本人の意思で入手方法を選ぶ形となっています。

株式会社アメディア

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