活躍する視覚障害社員の条件

2008年3月5日

視覚障害者就労・雇用連続講座にて

株式会社アメディア 代表取締役 望月優

職場は自己実現の場である。

職場生活が充実している社員こそ会社の戦力である。

1.視覚障害の求職者との面接

あなたの目の前にいる視覚障害の求職者をあなたの職場に迎え入れるかどうかを考えるとき、まずその人のスキル、意欲そして誠実さを知る必要があるでしょう。

次のような質問をすれば、その人のスキルと意欲と誠実さが判るでしょう。

上記の二つの質問に対する答えに対してこちらからも新たな質問をして会話し、求職者のできることとできないことをある程度把握した後に、以下の質問をします。

この会話の中から、求職者のスキルや意欲はもとより、障害の状況やその障害がもたらすハンディキャップの内容が把握できるとともに、その人の人間性も理解できるでしょう。

なお、「こんなことを聞いたら失礼に当たるだろうか」などと心配してはいけません。

誤解した状態で雇用する方が失礼に当たるでしょう。

そして、どんな質問に対しても落ち着いて答えられるような人でなければ、雇うのは危険でしょう。

あなたの職場のスタッフも、皆視覚障害に対しては知識がなく、同じような質問をしたくなるはずだからです。

逆に、視覚障害者側から言えば、これから就職する職場の方々は皆視覚障害に対しては知らなくて当然なんだという気持ちであらゆる事態を受け止められなければなりません。

2.職場実習

知的や精神の障害者ではよく行なわれている職場実習ですが、視覚障害者の場合にも、雇用を決断する前に1・2週間程度の職場実習をお勧めします。

視覚障害者があなたの職場で十分に働けるかどうかは、他のスタッフとの間での業務パスがうまく通るかどうかによります。

ですから、実習は、本人のスキルを見ることを目的とするのではなく、本人と周りのスタッフがうまくコミュニケーションが取れるかどうかを確かめるのです。

もともと、視覚障害者の場合、機材をそろえてあげなければスキルを生かすことはできません。

実習の段階では機材は整っていないわけですから、本人のノートパソコン持込でできる範囲のことをさせます。

一番お勧めなのは、電話を使った仕事です。

電話が比較的よくかかってくる職場なら、一番に電話を取らせて、内容に応じてスタッフに回す、あるいは、内容を聞いてもらってスタッフにメモを回してもらうことをさせたら良いでしょう。

「メモを回す」ことは、メールで行なえるならベストです。

本人が全盲でなければ、紙に書いたメモを回してもらうこともできるでしょう。

電話があまりかかってこない職場なら、電話営業をさせても良いでしょう。

電話営業の結果をスタッフにメールやメモで伝達してもらいます。

電話はあまり使わない職場なら、

などもよいでしょう。

また、英語ができるかどうかを聞いてみるのもよいでしょう。

視覚障害は英語に対しての障害はありません。英語ができるかどうかが募集用件に入っていなくても、あなたの目の前の視覚障害者は英語がそこそこできるかも知れません。もしも英語ができるならば、研修でやってもらえる業務の選択肢が増えます。

いずれにしても、研修のときは、なるべく短い時間でそれなりの結果を出せる業務で、スタッフとのやり取りが発生する簡易な業務が良いでしょう。

このような実習を経たのち、スタッフとの業務パスがうまく通ることを確認し、現場スタッフの意見も聞いた上で雇う決断をされることをお勧めします。

3.雇用に当たっての環境整備

実際に戦力として働いてもらうためには、環境整備が必須です。

音声出力機能を装備するためのパソコンやソフトウェアの準備、点字の使える視覚障害者には点字ディスプレイや点字プリンタの準備、文字を拡大すれば見ることのできる弱視者には適切な拡大読書器の準備、そして、印刷物をテキストに変換して読み上げたり画面で表示したりするためのOCRソフトや音声拡大読書機など、本人の業務効率を確保する上で必要な機材はもれなくそろえるべきでしょう。

点字プリンタは50万円から100万円程度、点字ディスプレイは20万円から50万円程度等とそれなりに高額ですが、その後の本人の業務効率の違いを念頭におけば、導入しない選択肢はありません。

「環境をこれだけそろえたのだから、しっかりやってくれよ」という業務に対する前向きメッセージにもなります。

環境整備に関しては、まず第1に本人の意見を聞き、次に支援者の考えを聞いて、必要に応じて信頼できる業者に本人とともに相談するのがよいでしょう。

なお、視覚障害者の場合、点字ブロックや音声チャイムなどの誘導用設備は必要ありません。

道路などに敷かれている点字ブロックは便利ですが、それははじめてそこを歩く視覚障害者でも安心して歩けるように配置されているものです。

自宅の前や中に点字ブロックを敷いている視覚障害者がほとんどいないことからも判るように、毎日歩く通路や廊下には点字プロックは必要ありません。

また、部屋が多い場合、ドアや手摺に点字の表示をつけたり、弱視の社員には大きな文字で表示することなどは有効です。

これらは、現場のスタッフの協力が得られれば自前でできることなので、設備費を投入してまで行なうことではありません。ご安心ください。

4.雇用後の育て方

もっとも大切なのは、雇用後に成長し、戦力になってもらうことです。

これは、ほかの社員と同様です。

まず心を配るべきは、社員の身体と心の健康です。

職場の雰囲気がよく、仕事にもやりがいがあって、体調もよいとなれば、社員にはやる気がみなぎってきます。やる気が出れば、おのずとスキルが上がり、生産性も上がります。

社員の活躍のエネルギーは、仕事に対するモティベーションと身体と心の健康から湧き出てきます。

その点では、視覚障害の社員に特別なことをする必要はありません。

大切なことは、視覚障害の社員にほかの社員と同じチャンスを与えるということです。

社内の研修があるのなら、ほかの社員と同じように研修に参加させてください。

評価制度で昇給や昇格が決まると思いますが、この評価においても、他の社員と区別することなく本人の実績を素直に評価してください。

「昇格した同機のAさんは仕事がばりばりできるから昇格したんだな」という気持ちなら納得です。

「Aさんの仕事ぶりは私と同じぐらいなのに、Aさんだけ昇格して私が昇格できないのは、目が見えないからだろうか・・・」と思わせてしまったら、その視覚障害社員の仕事へのモティベーションは落ちます。

視覚障害社員がそのように感じているようであれば、人事の責任者は本人に対してAさんとの違いを明確に伝えるべきでしょう。

もともと、視覚障害者の社員には、自分のできることを主張し、仕事を周りから取っていくぐらいの勢いが必要です。最初は、職場の同僚は、なかなか視覚障害者に的確な業務を回すことができないからです。この関係を良い方向に向かわせるために、職場での開かれたコミュニケーションが必要です。

開かれたコミュニケーションの状態が実現できれば、視覚障害者側もできることを主張し易いですし、職場の仲間もどのように業務を回したらよいのかが掴めてくるでしょう。

会社としては、雇った社員にはとにかく効果の高い業務をしてもらうことが先決ですから、あらゆる意味での人への投資は必要です。

適切な機材をそろえることについては3.で述べましたが、それ以外にも心のケアも必要です。

万が一視覚障害の社員側に「目が見えないんだから、そのぐらい大目に見て欲しい」といったような甘えがあるようなら、そのときには、その「甘え」を打破するために、自己啓発のカウンセリングを受けさせたり、メンター的な立場の人が膝を突き合わせてじっくり話を聞くなどの心の建て直し策戦が必要でしょう。

株式会社アメディア

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