2009年2月14日 16時、中野サンプラザクレセントルーム
アメディア創立20周年記念交流会にて
望月優
1.会社と社員
2.会社とお客様
この二つの焦点から話を始めます。
1.会社と社員
皆さんは、「何のために仕事をしていますか?」という問に対して、どう答えますか?
昨年、都立高等専門学校にインターンシップの説明会で伺ったとき、生徒さんたちにこの質問をして見ました。
すると、
- お金のため、
- 生活のため、
などという答えが返ってきました。
これは、常識的な回答ですね。
私たちは日常、起きている時間の半分を会社で過ごしています。しかも、その時間帯は1日のうちでもっともコアな時間帯です。
1日のうちのもっともよい時間帯を過ごす場ですから、つらい場所、苦しみの場所であってはならないというのが私の信念です。
ならば、どのような場であればよいのでしょうか。
それは・・・
- 楽をする場ではありません。
- 遊びのように、単に楽しいだけの場でもありません。
それは、
- 成長し続けることができる場であり、
- 人々への自分の貢献が実感できる場でなければならないと思うのです。
人生のうちの起きている時間のうちの半分を過ごす場ですから、その場での充実感がほぼイコール人生の充実感になると言っても過言ではありません。
ですから、私はアメディアを
- 社員が成長し続けることのできる会社
- 社員が人々への貢献を実感できる会社
にしたい、その方向でよりレベルの高い会社にステップアップさせていきたいのです。
さて、起きている時間の半分を会社で過ごすわけですが、もう半分はどのように過ごすべきでしょうか。
会社の通勤時間や寝起きする前後の時間帯を差し引くと、残念ながら会社に勤務している時間よりもかなり短くなります。
ですが、この時間帯は、社員には仕事以外で充実した時間を過ごしてもらいたいと考えています。
会社で社会貢献が実感できたとしても、いろいろな面で成長する自分が感じられたとしても、「会社の仕事」という切り口だけで生きていたのでは、狭い焦点だけを見つめている生活になってしまいます。
狭い焦点だけで生活しつづけると、結局視野の狭い人間のままで留まってしまいます。
実は、これは、社員だけの問題ではなく、経営者である私の問題でもあります。
この点において、私は東京中小企業家同友会に入会し、4年前に障害者委員会の委員長の任をお引き受けしまして、大変感謝しています。
それまでは、もちろん私も何とかしてアメディアの業績を上げたいと思っていますから、毎日夜遅くまでデスクに向かってこつこつと仕事をし続けていました。
ですが、同友会で役員を引き受けるようになり夜の会合が増え、また、同時に同友会で行なわれる数々の勉強会が非常に私の経営者力を上げるのに役に経つことも判って、さらに多くの会合に出席するようになりました。
さらには、当時大変太っていたものですから、このままではいつ倒れるかわからないと思い、同友会の会合のない夜には、北区の王子にある東京都障害者スポーツセンターのプールで泳ぐようになりました。
このように、同友会によって強制的に夜の時間が取られるとともに、自分の意思でさらに水泳で夜の時間帯を使うようになり、夜、会社に残って残業することが非常に少なくなりました。
そして、アメディアの業績は私が夜・会社に残らなくなってから着実に伸びてきました。
因果関係があるのかどうか決め付けられませんが、アメディアの業績は、私が同友会活動で忙しくなればなるほど、そして、私の水泳生活が習慣化して体重が減れば減るほどよくなってきました。
でも、もうこれ以上体重は落としたくないので、これからはどうしようかなと思案しています。
また、社員にはそれ以前から不必要な残業をしないようにと口をすっぱくして言っておりましたので、もともと残業時間は全体的にあまり多くはありませんでしたが、私が速く席を離れることによって、社員も少しは早く帰りやすくなったのではないかと思います。
私自身の体験からも実感していますが、より良い人生、より豊かな人生を味わうためには、会社の仕事も充実しているし、私生活も充実しているという状態が必要です。
この考え方は、最近流行の言葉で言えば「ワークライフバランス」ということになりますが、いずれにしても、私は、社員一人一人が充実した予価の時間の過ごし方ができるような会社にしたいと思っています。
2. 会社とお客様
先ほど、社員との関係の切り口から見た私のアメディア像の2番目に、
- 社員が人々への貢献を実感できる会社
を挙げました。
この「人々への貢献」の中核となるのは、もちろんお客様への貢献です。
本日ご来場いただいた皆様の中には、視覚障害者の福祉に携わる皆様が大勢おられます。 福祉に携わる皆様にとっては、利用者の皆さんへの貢献ということは自明のことに違いありませんが、民間企業のビジネスでも同じだと考えています。
ビジネスの対象としているお客様にどの程度貢献できているかということが、そのまま会社の業績に繁栄されることは間違いありません。
さて、ここで、私たちの1日の生活を考えてみましょう。
とりあえず、私の普通の1日の生活パターンを紹介しますね。
望月優の1日の生活
まず、朝5時頃目覚めます。
目覚めると、枕もとに置いてあるプレクストーク・ポータブルレコーダーの電源を入れ、よむべえで読ませて録音したデイジーCDを聞きます。これが私の「朝の読書」です。
ここで、プレクストークを製造しているシナノケンシさんと、よむべえを製造しているアメディアが私の読書に貢献しています。
次に、これを聞きながら風呂を入れ、入ります。風呂に入っているときも、プレクストークをトイレの便座のフタを締めてその上に置いて聞きつづけます。
ここで、バスタブを作った会社と水道で水を供給してくれている東京との水道局そしてガスを供給している東京ガスが私に貢献していますね。
風呂から上がると布団をたたんで朝食の果物を食べます。
ここで、果物を栽培している農家と、それを私の手元に届くまで販売してくれた流通が貢献していますね。この流通は、何段階あるのか私には判りませんが、どの段階の流通業者も私の生活に貢献しているわけです。
皆さんも、今から10秒間、自分の私生活とその私生活を支えてくれているビジネスセクタのことを思い描いてください。
- ・・・・
こんな風に具体的に考えると、私たちの生活は、非常に多くの事業運営者の貢献によって成り立っていることが判ります。
これらの事業運営者がなかったならば、今よりもかなり不便な生活を強いられているはずなのです。
逆に言えば、どんな仕事でも、対象となるお客様の人生に大きく貢献していることは間違いありません。
私は、このお客様への貢献が一人一人の社員にとって明確に実感できる会社が良い会社だと思います。
3. 社会のレギュラーポジション
ちょっとお尋ねします。
この中で、よむべえまたはヨメールをお使いの方はどのぐらいおられるでしょうか。
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それでは、アメディア製品以外で活字の印刷物を音声で読んでいる方はどれぐらいおられるでしょうか。
拍手
次に、この中で、ボイスサーフィンを使ってホームページを音声で聞いているという方はどれぐらいおられるでしょうか。
拍手
それでは、ボイスサーフィン以外のソフトでホームページを音声で聞いているという方はどれぐらいおられるでしょうか。正直に手を挙げてくださいね。この後の食事はちゃんと出しますから心配しないでください。
拍手
今手を挙げて頂きましたが、よむべえやヨメールで印刷物を読んでおられる方はそれ以外の機器で読んでおられる方よりも多かったですね。この状態を私は「社会のレギュラーポジション」と名づけます。
ですが、ホームページを音声で聞くのに、ボイスサーフィンで聞いている方よりもほかのソフトで聞いている方がずっと多かったですね。ということは、ボイスサーフィンは社会のレギュラーポジションが取れていないのですね。ボイスサーフィンは残念ながら補欠選手ですね。
会社は個々のお客様のニーズにあった製品やサービスを投入し、その分野で評価してくれるお客様を増やして行き、その分野においての社会のレギュラーポジションを取ろうとチャレンジしつづける存在だと思います。
人々は自分の人生を豊かにする商品を自分自身のニーズに従って自然な形で選んでいるだけです。
このようにして、お客様のニーズから発生する自然な評価でレギュラーポジションが取れればその事業は発展し、レギュラーが取れなければ発展しません。
レギュラーとして活躍している分野では、お客様からのフィードバックもたくさん帰ってきますから、
- 社員が人々への貢献を実感できる会社
になるわけです。
レギュラーポジションを作る
さて、社会のレギュラーポジションが野球のレギュラーポジションとちょっと異なるのは、社会のレギュラーポジションは新たに生み出すことができるということです。
今、アメディアでは、携帯電話を利用した印刷物の読み上げ機の開発に取り組んでいます。
私も「よむべえ」で本が読むことができてとても便利なのですが、大きくて持ち運ぶことができないので、ちょっと残念な思いをしています。
携帯電話で読めれば、どこにでも持っていってその場で印刷物が読めますから、同友会の会議やいろいろなセミナーに参加するときに非常に便利です。
この例ですと、携帯できて印刷物を読み上げることのできる機器は、今のところ、日本には存在しません。
ですから、もしもこの機器を日本で最初に発売できれば、目の不自由な方が出先で印刷物を音声で聞くという新しいレギュラーポジションが生み出されます。
このように、社会のレギュラーポジションは自ら作り出すこともできるというのがビジネスの醍醐味の一つですね。
アメディアは、小さな分野での「社会のレギュラーポジション」を一つずつ抑えて行きたいと考えています。
それが実質的な人々への貢献であり、また、その人々への貢献が実感できる会社作りのシナリオでもあります。
4. アメディアのチェンジ
それでは、「アメディアの創立30年史」をご覧ください。
本日は創立20周年記念日なのに、なぜ30年史なんだという声が上がりそうですね。
「自分の未来は予測するものではなく、自分で作るものである」
これは、「七つの習慣」の著者・スティーブン・コビー博士の言葉です。
ということで、私も本日までの歴史ではなく、10年後までの歴史を書いてみました。
「アメディア創立30年史」の14ページをご覧ください。
8. 企業創生期:第22~24期(2009年7月~2012年6月)
第22期決算後にはじめて配当し、23・24期には経常利益が確実に2千万円を越えるようになり、毎年配当するようになりました。
社員の給与や賞与水準も同業種の上場企業の標準レベルに追いつき、要約「企業」としての体を整えることができました。
視覚障害以外の障害者へのマーケットも徐々に広がり、海外市場へも製品を投入するようになりました。
パソコンをベースとした製品のみならず、携帯型の機器も自社開発により数種投入しました。
この時期は、企業として本格的に立ち上がった時期と言えます。
第24期:年商5億円、経常利益2500万円、株式配当10%
この時期は、もう今から3年間のことですので、同友会で学んでいる経営指針成文化セミナーで経営計画を立てる近未来の範囲です。
チェンジの方向性としては、
パソコンからモバイル機器へ(技術開発)
社長手動から社員手動へ(物事の判断ラインのボトムアップ)
自社販売から販売店販売へ(販売網の展開)
視覚障害者から他の障害者へ(社会のレギュラーボジションの拡大)
日本から世界へ(社会貢献フィールドの拡大)
を目指します。
9. 成長期:第25~28期(2012年7月~2016年6月)
アメディアは社会的存在として成長し、人々のニーズを的確に捉えられるようになり、従来のマーケットを基盤にしながら新事業を着実に成功して行きました。
10年前に打ち立てた目標の社員皆が成長する会社の仕組みも整い、新事業立ち上げに当たって関連子会社を設立する際、社員の中から社長に抜擢する人材が現れました。
また、社員の中から独立して会社を起こす者も出てきました。
アメディアの子会社としてスタートするか独立系として創業するかは私にとって問題ではありません。私がアメディアを経営する中で培ってきた価値観やマインドを共有して独立していく社員は、これからも仲間であり彼らが経営する企業はフレンド企業だということです。
お陰様で、私は、経常利益が1億円を越えた第28期で株式会社アメディアの社長を退任し、会長に退かせて頂きました。
第28期:年商10億円、経常利益1億円、株式配当20%
10 発展期:第29~31期(2016年7月~2019年6月)
アメディア及び関連会社は、着実に社会のニーズに答え、より大きな社会的役割を担いつつあります。
マネジメントの一戦から降りた私は、講演や各種の社会活動にエネルギーを注ぎながら、アメディアやアメディアから育った仲間達の活躍を感じつつ、大変楽しい日々を過ごしています。
5. 同友会紹介
さて、私は今・中小企業家同友会という経営者団体で良い経営者を目指して勉強しています。
ここにも、共に学ぶ同友会の仲間が参加してくれています。
同友会の皆さん、どうぞご起立ください。
今・立っている人達が、私の経営力の基盤、ひいては株式会社アメディアの業績の基盤を作ってくれている人達です。
本日お話させて頂いた内容も、中小企業家同友会での学びの中から構築されてきたものです。
そして、もちろん、これからもさらに自分自身成長するために、同友会で学び、活動して行きたいと考えています。
同友会の皆さん、ありがとうございました。
どうぞ、ご着席ください。
6. 最後に
それでは、アメディア創立30年史」の最後のエピロークをご覧ください。
これを読ませて頂いて、私の話の締めとさせて頂きます。
エピローグ
人生の質は感情の質なり
これが最近私が感じている人生観です。
私たちは直面するいろいろな事態に対して、怒ったり泣いたり、笑ったり喜んだりします。
ある出来事には不満を感じて怒ったり落ち込んだりします。
別の出来事には喜びや楽しさそして充実感を感じたりします。
これら、いろいろな感情を持つ中で、プラスの感情を抱いている時間が長ければ長いほど、幸福な時間の比率が高い、つまり、良い人生を生きているのだと思います。
障害者は、多くの場面で苦難を抱えています。ですが、その苦難を乗り越えたとき、表現しようのない大きな喜びと最高の充実感が得られます。これぞ「幸福」、これぞ「生きがい」です。
障害者は、見た目ほど不幸ではありません。それは、不幸か幸福かは他人や環境によって決まるのではなく、本人の心が決めるからです。
そしてアメディアは、視覚障害者を幸福な気持ちへとアシストする商品を提供しています。
私は、自分が関わる人々すべてが良い人生を歩んで欲しいと念願しています。
お客様をはじめとして、取引先の皆様や社員個々の人生が幸多くなるために、私のできる限りの心を込めたいのです。
アメディアという会社の利害は、アメディアのお客様と社員が幸福な人生を歩むための手助けとなるかどうかという観点においてのみ存在します。
株式会社アメディアは、今後も障害者を始めとする苦難多き人々がより良い人生を歩むための手助けをすることを本業として行きます。
本日、アメディア創立20周年記念交流会に参集していただいた皆様と手を携えて、より多くの人達が幸福になる、良い社会を目指して一緒に活動して行きましょう。
ご清聴ありがとうございました。