戦力としての障害者雇用

企業のための障害者雇用支援セミナー

2009年3月24日

主催:練馬区障害者施策推進課、練馬区障害者就労促進協会

勤労福祉会館 集会室にて

東京中小企業家同友会 障害者委員会 委員長

株式会社アメディア 代表取締役望月 優

1. アメディアの事業概要

株式会社アメディアは、1989年2月に視覚障害者の情報環境をパソコンでサポートすることを目的として設立しました。

当初は、当時販売されていた視覚障害者用のソフトウェアとパソコンとプリンタなどの周辺機器をセットで販売し、設置して使い方を教えるというビジネス・モデルでスタートしました。

事業を進めていく中で、もっと便利な環境をということで、いろいろなソフトウェアを自社で開発するようになりました。

1996年9月に発売した印刷物読み上げソフトの「ヨメール」、1999年1月に発売したホームページ読み上げソフトの「ボイスサーフィン」、2003年8月に発売した音声拡大読書機「よむべえ」などが主な自社開発製品です。

2. アメディアの障害者雇用

第1号社員は視覚障害者でした。

会社設立当初は、目の見えない私と全盲社員の二人でスタートしました。

その後徐々に社員が増えて行きましたが、設立後10年までは視覚障害者と晴眼者が半々で増えて行きました。

弊社は視覚障害者にパソコンを販売しているので、電話サポートや開発、そして注文処理事務などの面で視覚障害の社員が活躍できるのです。

実際、障害者向けの製品やサービスを提供している会社で、顧客と同じ障害を持つ当事者が社員にいない場合、ほとんどその会社は成功しませんね。

1994年4月に簿記の資格を持っている女性を一人パートで雇用しました。その人は母子家庭で、生後6ヶ月ぐらいの男の子がいました。入社当初、入所できる保育園が決まっていなかったため、会社につれてきて私の足元で寝かせていました。

その後、彼女には癲癇があることがわかりました。ある日、何の予兆もなく突然倒れたのです。しかし、彼女はお子さんを保育園に預けた後も、時間内全力でめいっぱい働いてくれました。そこで、7月から正社員として採用しました。本当によく活躍する素晴らしい社員でした。

2005年3月にJHC板橋会の運営するワーキングトライから精神障害の方を一人紹介を受け、約1ヶ月の実習後にパート採用しました。これが、弊社でのはじめての精神障害の方と意識しての採用でした。

2007年12月に初めて永福学園から知的障害生徒の実習を受け入れ、これまでに3回受け入れています。

2008年5月に二人目の精神障害の方を今度は職安に募集を掛けてパートで採用しました。

現在、視覚障害者の正社員が一人、視覚障害者のパート社員が一人、精神障害のパート社員が二人働いています。

なお、2005年にワーキングトライの紹介で一人採用した後、おりに触れてワーキングトライに相談させて頂いています。

相談は、当人からの場合もありますし、私からの場合もあります。

このように、就労支援機関が顧問弁護士のように悩んだときにはいつでも相談に乗ってくれるという状態は大変助かります。

実際、ワーキングトライさんには、顧問料なしでいつでも相談に乗って頂いています。

皆様は、是非練馬区の障害者就労促進協会やお近くの障害者の就労支援機関を顧問相談先にしてください。

3. 経営と障害者雇用

アメディアでは、当初から視覚障害者を多数雇用していましたが、これは、ビジネスの顧客が視覚障害者ということなので、当然のことと言えます。

1994年に採用した経理担当者は癲癇持ちでしたが、これは採用した後にわかったことで、「障害者雇用」という意識はありませんでした。もともと視覚障害者が多い職場でしたので、彼女が癲癇と判っても問題はありませんでした。

2002年に東京中小企業家同友会に入会し、「良い経営」を学ぶ中でようやく2005年に本来の意味での障害者雇用を実現しました。

現在は、視覚障害のフルタイム社員1名、視覚障害のパートタイム社員1名、精神障害のパートタイム社員2名とフルタイムの健常者8名、パートタイムの健常者2名で運営しています。

まだ知的障害の方を採用したことはありませんが、永福学園からこれまでに3名の生徒さんを実習で受け入れています。

さて、アメディアにとって視覚障害者はターゲット顧客と同じ属性を持つ社員であり、会社にとって必須だということは言うまでもありません。

障害者雇用は経営体質を強くすると考えますが、その意味での真の障害者雇用は2005年に精神障害の方を雇ったところから始まると言えます。

2005年に彼を受け入れたときは、社内の役職者会議では、全体として受入に前向きな雰囲気ではありませんでした。

2008年に二人目の精神障害者を募集したときは、私からの主働ではなく、以前精神障害者の受入に引け腰だった社員の提案で行なわれました。

この間、永福学園の生徒の実習も行っておりましたので、これらにより、社内の多様性の受け入れ体質が強化されたと考えます。

最初に精神障害の彼を受け入れた2005年は、おりしも1月から、社員の評価制度をスタートしていました。

半年ごとに「成長評価シート」に従って自己評価をつけてもらい、その後で、同じシートの上司評価欄に直属の上司が、社長評価欄に私が評価を付けて、部長職以上の3名で評価会議を行なって最終評価を決定するという仕組みです。

その中で、精神障害の彼は特に自己評価が低いことに気付きました。

また、その他の社員も自己評価が高い人と低い人がいますが、以前よりも自己評価が低くなった社員には特に気配りする必要があるということに気付きました。

自己評価が低いということは、自分に自信がない状態だということだからです。自己評価が低くなったということは、以前よりも自信がなくなったことを意味します。

私は、会社のエネルギーは社員みんなの心のエネルギーの総和であり、社員みんなのエネルギーが会社の業績を支えていると確信しています。

そして、その心のエネルギーは、自分に対する自信とか自分自身に対する満足度から湧き出てくるものだと感じています。

現在、私は、社員個々の心のエネルギーを常に高め、社員一人一人が成長し続ける環境を作りたいと考えています。

私の目標カードには、「社員の自己実現」という一言があります。これは、社員一人一人が幸福感とやりがいをもって我が社で働く状態を作りたいということです。そして、その状態は、高い心のエネルギーから生まれてくると考えています。

精神障害者は、心のエネルギーという面でのハンディを抱えています。だからこそ、そのような社員の心のエネルギーを高めることができれば、どんな社員でもエネルギーを高められるという経営者としての自信が付きます。

私は、今、その点で挑戦中です。

2005年に入社した社員は入社当時から比べればはるかにエネルギーの高い状態で多くの仕事をより質の高いレベルでこなしてくれています。

昨年入社の社員は、今でもときどき欠勤することがあり、まだまだひよわな状態です。彼がもっともっとエネルギー高い状態に成長してくれる職場環境にしたいと試みています。

同時に、ほかにもまだまだ元気の足りない社員、物事を否定的に捉える社員がいます。これらの社員が皆より前向きになり、元気でエネルギーの高い状態になるよう努力しています。

4. 人材を育てる7・3の法則

そして、その努力の方向性のキーワードとして、「7・3の法則」ということを考えています。

目標を持ってそれに向かって挑戦しつづけていると人は成長します。

成長しつつある自分が実感できると、人生が楽しくなります。

いけないのは、現状に満足しきってしまい、自分はこのままでいいや、と思うことです。

その状態は、進化の逆の退化への道に踏み込んでいます。

現状のままでよいという気持ちでは、現状を維持することさえ難しいのです。

ただ、現状が不満ばかりという状態はさらに不健全です。

不満ばかりの状態からは、進歩への具体的な行動が出ません。

心に不満が満ち溢れていると、周囲に対してもマイナスの気を発して、周りの雰囲気までをも悪くしてしまい、チーム全体のモティベーションを落とします。

成長状態を作り出すのは、7割型は満足しているが、後3割を改善したいという心のバランス状態です。

7割満足、3割進歩したい、7・3の法則です。

7割満足していれば、未達成の3割の部分は不満にはならず、前向きな気持ちで「これから歩むべき道」になるのです。

3割の「これから歩む道」は、進歩する余地でもあります。

進歩する余地、成長する余地を常に保ちつつ、目標に向かって一歩ずつ進んでいく、そのように自分の心の状態を常にコントロールしていれば、私たちは成長しつづけますし、その自分を感じるのが楽しくなってきます。

つまり、秘訣は、現在の自分の状態を常に7割型は肯定することです。

目標に向かっている状態であっても、一つだけ気をつけたいのは、以前の自分よりも成長しているのに、自分の目標値と現在の自分との位置が遠すぎて、自分をマイナスにみてしまうという状態です。この状態は、4・6だったり、3・7だったりします。つまり、自分自身に満足していない状態です。

この状態から不満が募ると、毎日が不満や自己否定的な考えにさいなまれるようになり、その心の状態が自分を退化への道へと引きずり込もうとします。

現状の自分と目標値とが遠すぎるという状態は、人と自分とを比較することからよく生じます。

人と自分とを比較してはいけません。比較した人がすばらしければ自分がだめなように思えますし、逆に比較した人が自分の目からはだめだなと感じれば、自分が思い上がる原因となります。

比較するのは以前の自分です。

以前の自分と今の自分とは違っていて良いのです。

以前の自分よりも成長している側面を見出したとき、今の自分に対する不満な面がある程度あったとしても、自分自身を肯定することができます。

このようにして、7・3の法則を自分の心の状態管理に採用してみてください。

自分を肯定する割合が7、進歩に向かって歩く道が残りの3です。

5. ダイバシティーマネジメントからの評価

昨年、東京中小企業家同友会で「ダイバシティーマネジメント」の一人者である早稲田大学の谷口真美先生を及びしてセミナーを行ないました。

ダイバシティーマネジメントは、多様性を戦略的に導入することによって、会社の社会への変化耐応力が増し、経営体質が強くなるという経営論です。

「多様性」には、女性、外国人、高齢者などが位置付けられますが、当然障害者もその対象です。

ダイバシティーな組織は、

抵抗→同化→分離→統合

という段階を踏んで進歩していくそうです。

障害者雇用の段階と照らし合わせると、

抵抗仝雇用していない状態

同化仝雇用したが職場は全く変えずに障害者側の同化だけを求めている状態

分離仝雇用して本人の特性に合わせた仕事をさせている状態

統合仝その障害者を含む職場チーム全体の業務分担を見直した結果、チーム全体での効果性がもっとも高くなった状態

と考えます。

「障害者雇用」という観点では、分利の段階ですでに達成されています。

「良い経営」を目指すとき、統合へとステップを踏みます。

6. 障害特性と経営体質の強化

さて、ダイバシティーマネジメントを紹介させて頂きましたが、障害者を雇用して社員に組み込んだとき、どのように経営体質が強化されるのかについて、紹介させて頂きます。

A.適材適所の経営が学べる身体障害者の雇用

身体障害者とは、手足が不自由だったり目が不自由・耳が不自由な障害者のことです。

身体障害者の中でも、手足が不自由な人々は仕事の面で一番理解しやすいです。

ただ、代替機能と言って、手がない人でもパソコン操作が足でできたりすることがありますから、それらをよく理解した上で、その人がもっとも活躍できる場を作ってあげるだけで「分離的障害者雇用」としては成功です。

視覚障害者や聴覚障害者は、はじめて会う人にとっては少し理解しづらいところがあります。

視覚や聴覚の障害は感覚障害なので、今は目が見えないとか今は耳が聞こえないと言った現在の表面的な状態だけでなく、その環境がこれまでその人をどのように育ててきたのかということにも心を配る必要があります。

目が見えない人は、音声出力を聞きながら操作できるパソコンがあるので、文章を書くのは苦手ではありませんが、子供の頃から見えなかった人は、漢字の使い方をよく間違えることがあります。それは、点字には漢字がなく、小中学生の頃に漢字を勉強してこなかったからです。

耳が聞こえない人の中には、文章を書くのが苦手な人がいます。小さい頃から耳が聞こえない人は、言語を聞いて身に付けることができなかったため、文章があまり得意ではありません。その代わり、絵やデザインに対する感性は研ぎ澄まされています。

これら、障害特性を理解した上で、さらに個々の障害者の特性を理解すれば、適材適所の配置は容易に行なえます。

B.業務分析が鍛えられる知的障害者の雇用

知的障害者に対しては、「1を言ったら10を行なえ」式な業務支持は酷です。これは、どなたにも理解できると思います。

知的障害者に業務をスムーズに行なってもらうためには、

です。

この作業を行なうと、業務を細かな要素に分解することができ、これまで一人の社員の判断に頼っていた部分を、チームで分担して行なうということができるようになります。

知的障害者を含むチームが生産性を上げることを目指すことによって、おのずと業務の見える化と最適化が進み、会社全体の経営効率が上がります。

C.社員の心の状態管理が磨かれる精神障害者の雇用

これは、先ほど私がお話した7・3の法則を社員皆に対して実行することです。

精神障害者が元気な状態で働くためには、その人の心の状態に気を配り、常にその人が良い心の状態でいられるように配慮する必要があります。

実際、精神障害者と言っても個々に病気の特性や個人の特性が異なりますので、一概にどうしろということはいえません。

ですが、私の経験から、その人の自分を肯定する程度が70パーセントを下回らないように常に言葉を交わし、指示を出す中で勇気付けていくことが大切だと感じています。

私の今までの経験上、いくら褒めたり勇気付ける言葉を掛けたりしても、やりすぎということはありません。精神障害の方が自信過剰になって傲慢になったという経験はまだありません。

一方、健常の社員の場合には、傲慢になることもあります。

個々の社員の心の状態が「自己肯定度70パーセント」になることをメドに接していれば、会社の生産性が上がります。

精神障害者はその意味で一番ハードルの高い社員なので、その人達がやる気になって働ける職場が作れれば、もうその会社は鬼に金棒と言えるでしょう。

このレベルは、ダイバシティーマネジメントの観点から「統合」の状態と言えるでしょう。

株式会社アメディア

〒176-0011
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